「記憶に刻みつけたくてパンフレットを購入」トウキョウソナタ septakaさんの映画レビュー(感想・評価)
記憶に刻みつけたくてパンフレットを購入
“感動した”の表現よりも
“心動かされた”こちらの表現がしっくりくる作品でした。
また、作中の人物たちは“わたし”そのものでした。
映画を観ながら、こんな、思いを抱いたのは、はじめて。
~ あれっ、これ、俺そのものじゃん ~
表現がストレートではない。
顔は笑っているのに、心は泣いている。
顔は笑っているのに、心は怒りに震えている。
誰しもに囲まれ、いつも笑顔なのに、孤独感に打ちひしがれている。
人間って、単純な部分はありますが、
すべてが、単純なわけではないですよね。
すべてが、だから上のよっつにあてはまるわけでもない。
心の奥底を暗闇までてさぐりで歩をすすめれば、
“ほんとうのわたしのきもちなんてだれもきづいてくれない”
こんな思いが、どこか気づかない場所に、それもあ自分自身が
気づかないように、無意識のうちに、隠してしまっているだけのような気がします。
この作品に登場してくる人たちも、
メインである4人家族含め、すべてが心の奥底で、
誰もわかってくれないんだ、と秘めごとを抱えていました。
ある人は、リストラされた事実をかくし、
ある人は、ピアノ教室に通う事実をかくし、
ある人は、米軍の外国人部隊へ入隊申込をした事実をかくし、
ある人は、ある人がリストラされた事実をかくしていることに、気づいたことをかくす。
はたからみれば、ふつうの家族でも、だれしもが、ひとつやふたつ、
言葉で伝えられない、伝えたくない“言葉”があるのではないでしょうか。
なにか、共感しすぎてしまって、逆に居心地というか、すわり心地が、変でした。
~フィクションの世界は、ありそうでないもの。このさじ加減が大事~
役所広司さんが、登場するまで“ありそうである世界”そのものでした。
登場してからは、現実の中に、非現実なものが、
ドボンと投げこまれ、ようやく、映画を観ている気にさせられました。
役所さんが登場したこの日、それぞれにやり場のない思いを、
暴発させ、4人家族は、再生(ふたたび、うまれかわる)するのでした。
ラスト、安易に観客の涙を誘いにいかない展開に、監督のこだわりを感じました。
エンドロール、この方法も、はじめて体験しました。音に集中し、頭で想像を
働かせるのに夢中になり、スタッフのなまえを追えなくなってしまいました。
そして、映画終了。
もし、ひとりでも、スタンディングオベーションをする人がいたなら、
わたしも、迷わず、スタンディングオベーションをしていたでしょう。
役者目当てで作品を選ぶことが多いわたしは、○○さんがよかった、と感想を書く。
今作は、限定できない。それは脇役を含め、すべての、役者さんがよかったから。
きっと、これからさき、何年たっても、この作品を忘れないのだろう。
そして、ふとしたとき、そっと、パンフを手にとり、いとおしむにちがいない。