「理屈抜きで癒される作品。観客の映画を見る力が問われてしまいそう~。」赤い風船 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
理屈抜きで癒される作品。観客の映画を見る力が問われてしまいそう~。
まずは、小地蔵の分身がこの世に誕生した1956年に製作された作品です。デジタルリマスターされますと驚くくらい画質が向上。傷一つありませんし、赤い風船がとても色鮮やかでした。ちなみにこの映画を観て絶賛した、絵本画家いわさきちひろは、代表作とも言える絵本「あかいふうせん」を描いたそうです。
全編を見て、シンプルな構成。単純なストーリー。50分足らずの短編であることを総合すれば劇場映画であることに不満を抱かざるを得ないというのが、率直な感想です。しかし、この名作は逆に観客である小地蔵に問いただすのです。おまえはなにも感じないのかとね。
VFX全盛のこてこてのエンタ作品に慣らされた身になっている方にとっては、映画に詩情を感じなくなっているのかもしれません。
今振り返ってみると、すごくこの作品にはポエムを感じます。
パリ・メニルモンタンの細く長く伸びた路地裏。
ベルヴィル公園から屋根越しに見えるパリ市街。
電灯に引っかかった、赤い鮮やかかでまあるい大きな風船。
手を離してもついてくる不思議な風船。
風船と友達になる少年。
友情のために悪ガキからの石投げにも逃げようとしない風船。
萎んだ風船の代わりに、次々起こる不思議なこと。
本当に少年パスカルに「反応」する赤い風船に、いのちを吹き込んだラモリス監督は、映画監督より詩人ですね。
台詞を思い切り絞り込んで、演技と場面のつなぎだけで伝えたいことが手に取るように分かりました。
ラストのとってもファンタジックな映像を見るに付けて、これは作品の出来よりも、観客の感じる心がためされているなぁとつくづく思いました。
ラストに感じたのは、自由です。
人は大人になると、様々な経験したことで自分の考えに縛りをかけて、「常識」の範疇でしか考えられなくなります。まだ魂として生きていた頃、肉体に宿り赤子として生まれた頃、そして少年時代を通して、心はどんなに自由に、無限の可能性を思い描いていたことでしょう。
この作品のラストを見て、こんな発想が出来るなんて!と感動しました。そして忘れていた「あの日々」に感じていた瑞々しい感じ方が蘇ったような気になりました。
ラモリス監督は、このラストに持って行く複線として、赤い風船を持ち歩くパスカルがどんなに不自由な扱いを受けたのかを描きます。そしてあの悪ガキたちにもいじめられいたのでしょう。
この複線があるからこそ、トンデモなラストに関わらず、自由に向けたふんわかな飛翔感とカタルシスを味わうことでしょうね。
日々ストレスと夏バテでお疲れ気味の方には、こういう理屈抜きで癒される作品がお勧めです。堅くなっていた心にイマジネーションの輝きが流れ込むと、きっと効果アリですよ。