「『われわれが救うべき人類とは?』と知的な議論がずっと続いていること。そこにただのパニック映画と一線を記する違いがあると思う。」2012 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
『われわれが救うべき人類とは?』と知的な議論がずっと続いていること。そこにただのパニック映画と一線を記する違いがあると思う。
他作品の試写会の時から何度も予告編を見せられて、凄い映像だと感じてはおりましたが、本編では予告編ので感じていたこんなものであろうという予想を超えたスペクタルでした。
ロサンゼルスのビルが次々崩壊してくスペクタルな画像は、まさにその場にいるかのような臨場感でハラハラドキドキの連続でした。ヒマラヤの頂を飲み込む超巨大津波なんて想像できるでしょうか?
これが全てCGかと思えないくらいのリアルさ。エメリッヒ監督のチャレンジ精神に脱帽です。
ディザスター映画(災害映画)の分野では、ダントツの第一人者であるエメリッヒ監督のこれまでの作品では、仕掛けはでかいが突っ込みどころも満載で、人間ドラマが甘いという特徴がありました。
本作では、過去の作品以上に、世紀末に至るプロセスについて、どう描いても科学的には眉唾に見えてしまいます。
もう一つの突っ込みどころとしては、主人公を政府関係ではなく、一般市民に置き、主人公が家族を守るために命がけの行動に出るシーン。主人公一家が助かるためには、どうやって極秘に進められている政府の人類生存計画を突き止め、便乗するのか?普通なら相当に無理をしないと繋がらない設定です。
そのためのガイド役として大統領の科学顧問エイドリアンを登場させ、太陽の活動の変化に伴い地殻が異常に高温となり、地殻が溶けて薄くなっていく過程について、根拠を示しながらストーリーを進行させていました。一般の観客レベルでもエイドリアンの語る説明ならあり得るかもと納得されることでしょう。
そして主人公のジャクソンがヒマラヤの奥地に国家連合で建造した『ノアの方舟』に当たる船まで到達するまでは、エイドリアンが彼の著作の読者だったり、自家用機を所有する富豪の運転士手を努めていたりなど、よく練られた伏線を張り詰めて、次々と関門をぎりぎりながら突破していきました。
パニックが起きてからというもののジャクソン一家の逃亡シーンは、常に紙一重なんです。地震や津波にのみ込まれる寸前まで追いつまれるところばかり。
面白い作品は、短く感じるものですが、本作の場合余りに緊張が続いたため、逆に長く感じるほどでした。
けれども映像表現以上に、本作で訴えかけるメッセージにも凄く考えされられました。 それは世紀末を覚悟した人類にとって、誰を残すべきか、残す価値があるのかというテーマです。ノアの方舟プロジェクトを統括したエイドリアンは悩みます。権力者とお金持ちしか救えないのか?もっと平等に救われる機会を与えるべきではないかと。
本作の特徴として『われわれが救うべき人類とは?』との問いかけを通じた知的な議論がずっと続いていることです。そこにただ世界が滅ぶだけのパニック映画と一線を記する違いがあるのではないでしょうか。
その象徴的な存在として登場するのが、黒人大統領のウィルソン。彼は危機を早期に知り得たのにも関わらず、多くの国民と共にホワイトハウスに居残ることを決断します。そしてエイドリアンに、わたしよりも君のような若い才能のあるものをひとりでも多く連れて行きなさいと諭すのです。ウィルソンの国民への深い愛に打たれました。
そしてパニックのなかで、離婚後に息子からも馬鹿にされていた哀しいパパ、ジャクソンが、命がけで立ち回ることで、家族の信頼を取り戻していく家庭もなかなかよかったです。命をしのぎ合う体験を共有してしまうと、どんな疎遠な家族でも愛を取り戻してしまうものなのですね。
●2012危機説の信憑性
さて、肝心の2012危機説の信憑性ですが、本作も触れている太陽フレアが地球を灼熱地獄にするという予測については、科学的には可能性が低いとされています。
また木星ぐらいの大きさの惑星二ビルが太陽系に接近して、地球の重力にも干渉。天変地異を起こすのではとする予測もあります。
さらには宇宙を漂うフォトン・ベルトという光子のベルトが太陽系に突っ込んできて、未曾有の事態を引き起こすという説もあります。フォトン・ベルトはNASAも認定していて、これが危機説の一番有力な説になっています。
但し、これら天変地異よりももっと確実に起きそうなのは、人災です。2012年には人口が70億人を突破して、もし異常気象が続いたら深刻な食料不足を招いてしまいます。食料を奪い合うための国際紛争が起きる可能性も否定できません。
2012年は、中国が空母を建造し、ハワイ以西の日本と「琉球」を含むアジア諸国を事実上の属国として支配下に置くことになります。軍事的に膨張する中国に対して、核を持つインドがどう反応するのかが気になります。
また、アメリカが中東から完全撤退した場合、タリバンは世界中のイスラム革命を目指して、各国で武装蜂起を始めることでしょう。それはやがてかつてノストラダムスで予言されたイスラム対欧米+イスラエルの核戦争にまで発展してしまうことでしょう。
さらに新型インフルエンザの猛威も2012年初頭が本番となる可能性が大です。
いろいろな宗教に世紀末の予言が伝承されてきていますが、なぜか2012年以降は存在しなくなります。ノストラダムスがその予言で語ったとおり、人類は無意識に新しい「太陽の時代」へ脱皮を始めだしたのかも知れません。世界はまだ混沌としておりますが、現代文明が抱える諸矛盾がピークにさしかかる2012年頃には、危機を乗り越える叡知が湧きいでて希望となることを小地蔵は信じています。
ヤーベなど砂漠の神々は、ジコチュウだらけの人類に怒り、かつての文明のように一度リセットして、作り直すべきだと主張しているだと思います。きっと本作のような天変地異の引き金を引こうと虎視眈々と狙っているのでしょう。世紀末を引き起こすのは、悪魔でなく神々の御業であることが、やっかいな点なのです。
そうした悲劇を繰り返さない秘訣は、国境も民族も宗教も越えた普遍的な愛なんだと思います。
皆さんの潜在意識には、1万5千年前のアトランチスも27000年前のムー大陸の最後も、別れがたい悲しみともに魂に刻印されているはずです。
本作のような作品が作られるのも、単なる脅しではなく、これからの時代に、皆さんひとりひとりがどういう未来ビジョンを描いていくべきなのかを提起しているのだと思います。もう二度と、箱船なんて造ることがなくなるように。
加えてあなたさまの大切な存在に感謝をしたくなる作品です。神仏を信じていない人でもね。今日という日が穏やかに過ぎていくことが、なんと有り難いことでしょう。日々の見過ごしな幸福。それが当たり前すぎて・・・。
もし2012年になって、箱船に乗るような事態になって初めて、しみじみと平穏な日々を噛みしめてしまうのでは、なんか哀しいことですね。