「泣けない『火垂るの墓』も新鮮。」火垂るの墓 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
泣けない『火垂るの墓』も新鮮。
野坂昭之氏の原作は読んだことがないけど、これまで名作と名高い高畑勲アニメ版、2005年のTVドラマ版と見てきました。元々は故黒木和雄監督による映画化が計画されていましたが、彼を師と仰ぐ日向寺太郎監督が全てを引き継ぎメガホンをとった作品。戦争の恐怖や残酷さを描いたアニメ版、それに加え叔母の苦悩も描いたTVドラマ版、そして観客の涙を誘うことよりも死生観にスポットを当てることをメインとした今作品。と、簡単に個人的な比較をしてみました。
戦争を描いてあるのは冒頭の神戸空襲のみという潔さ。家を失った幼き兄妹の清太と節子は遠縁にあたる西宮のおばさんの家に身を寄せることになるが、そこからは戦争そのものの恐ろしさよりも戦争によって狂ってしまったかのような人間の怖さを描いているような気がするのです。これはまさにホラーやサイコというジャンルの映画のようだ。
事実、死体の描写は生々しいものが多いし、松田聖子だって包帯をぐるぐる巻かれている。節子が道端に転がっている死体を見ても驚愕しないとか、校長一家が心中した防空壕でも平気で生活を続けるとか、リアルなグロ映像にも増して死に対して動じなくなってしまった清太の変化も見どころかと思います。もちろん、節子の死に対してはホタルの死と同様に扱うといったテーマは失われておらず、戦争という悪が何者であるかもわからない兄妹の心は監督と同様に戦争を知らない観客にも問いかけてくるかのよう。
ただし、序盤での回想シーン挿入など、流れを無視した脚本では生々しさが伝わってこない。全体的にもシークエンスよりもエピソード重視といった編集が完成度を低くしてしまっているようです。そして西宮のおばさんを演ずる松坂慶子。意地悪ばあさんをもっとガメツクした性格のため、自身も夫を亡くしたという戦争の犠牲者なんだと同情もできないほど。このやり過ぎ感もホラー映画に通ずるなぁ。
はっきり言って、ダメダメなリメイク作品なのですが、浮いてしまってるほど素晴らしいのが音楽なのです。日本が世界に誇れるジャズギタリストの渡辺香津美とピアニスト谷川公子とのコラボ作品。特にナイロン弦によるクラシカルなギター曲が流れると、数多くのホタルの墓が名作『禁じられた遊び』を彷彿させ、純真な子供たちが経験する戦争といった崇高なテーマさえ感じさせるのだ・・・やっぱり惜しいなぁ。