劇場公開日 2009年12月5日

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「愛する妻が死にました」カールじいさんの空飛ぶ家 いおりさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0愛する妻が死にました

2009年11月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

楽しい

単純

洋画アニメも軒並み3D化が進み
そのビジュアルの質も向上し今年は本当に楽しめた
ラスト飾るは「UP」こと「カールじいさんの空飛ぶ家」

興行収益も北米で三億ドルの大ヒット
昨年のWALL・Eを髣髴とさせ期待はあがる
ヒット連発するピクサー作品であればハズレはまずない
アカデミー賞のノミネートも当然のはずだ

美しい映像や愛らしいキャラはもちろんだが
ピクサーのウリはむしろハートフルなストーリーにあると思う
モンスターや超人を登場させたり
車に魚にネズミやオモチャに言葉をしゃべらせ興味を惹くが
土台には必ず心に響く童話的で普遍性あるテーマが置く

今回も泣かしてくれることを大いに期待し鑑賞した

人生の全てともいえる妻のエリーを失ったカールじいさんが
思い出の詰まった家を空へと飛ばし
二人の意志である滝への冒険に出かけていくストーリー

今回、登場人物は意外と普通のおじいさん
風船で家を飛ばすという設定側にファンタジックを用意する

この連鎖的に動く風船の表現はかなり緻密
リアル過ぎないリアルが、空を飛ぶことの説得力のある動きを実現
手の込んだ映像にピクサーの手抜きない職人気質を感じられる

そのプロローグでは冒険に魅せられた少年時代のカールが
同じ感性を持つエリー出会ってから今までのストーリーが描かれる
この人生のダイジェストが、実は本作で一番泣けた

 そこにはいつも君がいた・・・。

チラシにもあるこのキャッチコピーは秀逸だ
カールにとってどれだけエリーが特別で失うことが大きいか
悲しいかな、オレはそれに似た気持ちを知っている
じいさんに自分を重ねその淋しさが身に沁みる

ある意味冒険という逃避に出かけたじいさんだが、幸い仲間に恵まれる
太っちょ少年のラッセル、新種の鳥ケヴィン、ある特殊能力持った犬のダグ
まるで鬼退治に行く桃太郎のような布陣になったのは偶然だろうが面白い

その鬼に当たる人物も悲しき理由を持っており
じいさんとの過去の因縁がなかなかうまく絡んで来る
少年ラッセルのパーソナリティにも影があり
当初鬱陶しいと思った少年にカールは幼き頃の自らを重ね心を開く

壁に当たったカールじいさんが
彼にとって革命的な決意をして後半へと物語は展開
カールじいさんがたどり着いた老後はどんなものなのか
ほっこりする後味は今回もちゃんと用意されていた

「くもりときどきミートボール」 は、もしもお菓子が降ったならという夢を
「カールじいさん・・・」 は、もしも空を飛べたならという夢を見せてくれた
最近の映画は、荒唐無稽な子供の頃いだいた夢を豊かに表現することができる
映像技術の向上は楽しさを連れてきてくれ、とても嬉しい時間をすごせる
そのため子供だけでなく、オジサン世代以上にも刺さると思われる

ただし昨今の洋画アニメ比較をしてしまうと感想はやや辛口になる
理由の一つは、環境保護、高齢化社会、都市開発、家庭問題などを挟み
テーマが散漫になったことだ
本来亡きエリーとの夢を叶えるための旅が後半そっちのけになり
序盤のそれに関する感動がなんだかボヤけてしまった

エリーがいない現実を乗り越えていくカールじいさんを濃く描いて
ラストはその部分でひと泣かせして欲しかった
まあ、それは目が肥えてしまった贅沢な欲求だとは思う

今回もお約束の短編作品
「晴れ ときどきくもり」 という前菜がついている
こちらもハートフルないい話
楽しめる作品なことは間違いなしの  2000円

いおり