劇場公開日 2010年1月15日

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「遠ざかってゆく、かいじゅうたちの島」かいじゅうたちのいるところ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0遠ざかってゆく、かいじゅうたちの島

2010年2月17日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

1ヶ月以上前に観た映画を今更レビュー……遅筆&面倒くさがりでスイマセン。

思うにこの物語は、世界が思ったほど自分の為に回っていないと気付き始めた子どもが、その世界と折り合いを付ける方法を探す話。

『太陽が死んだらどうしよう』と不安がる主人公マックスを見て、自分がまだ小さかった頃の心配事を思い出した。
隕石が落ちて地球が滅んだらどうしようだとか、ブラックホールに地球が呑み込まれたらどうしようだとか、昔は笑ってしまうほど壮大なレベルの心配をしていたものだ。
思えば小さな頃は、宇宙やらかいじゅうやら得体の知れないものが存在する世界と現実世界の境目は今よりずっと曖昧で、世の中は不思議で怖くて興味深くて、間違いなく今よりも素敵な場所だった。

映画で確か二度だけ、シーンがフェードで切り替わる場面がある。家を飛び出したマックスが、かいじゅうたちのいる世界へと旅立つ場面と、再び家へ戻る場面がそれだ。
現実と幻想の境目を飛び越える瞬間を、『穴に落ちる』とか『光に包まれる』といった大袈裟な演出を用いず、フェードひとつで表現する。まさしく子どもの現実と幻想は隣り合わせ。

構ってもらえない寂しさから癇癪を起こして暴れたり、真剣な場の空気を濁したりするマックスには正直イライラさせられる。だけど、小さな子どもってこんなもの。僕も年の離れた弟の世話にイライラした覚えがあるし、僕自身もそうだったはずだし。
むしろ子どもの心を繊細に切り取ってみせる監督の手腕と、主演のマックス・レコーズのナチュラルな演技に驚かされた。
(例の店長さんは果たして子どもの凶暴で利己的な一面を声だけで演じ切る事が出来たんだろうか?)

ファンタジーな見た目と現実的な言動が同居するかいじゅうたちは、ワガママなマックスをすぐに受け入れてくれるが、少しずつ少しずつ、現実的な問題を提示し始める。かいじゅうたちは、マックスが現実を——『太陽が死ぬ』ことよりもっとずっと身近で深刻な問題に満ちた現実を受け入れるための一種のクッションだったのかもしれない。

幻想の世界はだんだんと子どもから遠ざかっていく。いつかは自分から小舟に乗って、島を出ていかなきゃならない。それは堪らなく寂しいことだけど、マックスの母親が最後に見せる穏やかな寝顔は、現実世界にだって温かくて素敵なものがある事を思い出させてくれる気がするんだ。

浮遊きびなご