「かつて『無限の彼方』で遊んだ全ての人へ」トイ・ストーリー3 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
かつて『無限の彼方』で遊んだ全ての人へ
普段の僕は日本語吹替がニガテなんですが、このシリーズは気にならない。吹替も達者だし、十何年も前から慣れ親しんだ声だしね。
一時期はピクサー抜きで『3』製作なんて噂も出たのでヒヤヒヤしたけど、元の鞘に戻って良かった。
3作目ともなると流石にクオリティが落ちないかと心配になるが、杞憂でしたね。最終作にして最高峰。いや、これまで丁寧に練り上げてこられたシリーズだからこその高みか。
西部劇、恐怖の幼稚園児、邪悪な玩具、脱獄大作戦、そしてエスパニョールにトルティーヤ!(笑)
3作目でまだこれだけのアイデアが浮かぶか!
ゴミ処理場という、オモチャにとっての本当の地獄で迎えるクライマックスは心臓がキリキリ痛むほどの恐ろしい迫力。
互いに手を繋ぐ姿を見て、頼むから誰も死なないでくれと本気で願った。
絶望的と思われた瞬間に君臨した「かみさま〜」に笑い泣き。伏線の張り方、巧すぎ。宇宙人トリオよ、お前ら最高だ!!
そして忘れ難いのは、アンディがみんなみんなを大事に想ってくれていた事が分かる最後のシーン。オモチャひとつひとつを手に取って紹介する時の嬉しそうな表情。ウッディを庇うように、反射的に引っ込めたその手。なんて雄弁で、美しい仕草だろう。
こんなに優しいラスト、反則だ。
もう泣きに泣けてしようがないじゃないか。
この映画が僕らのハートを直撃するのは、『古い玩具がノスタルジィを喚起させるから』とか、『オモチャに幼少の頃の想い出が詰まってるから』とか、きっとそんな無機質な理由からじゃない。
物心付かない頃の小さかった僕らにとって、彼らは本当の生きた友達だった筈だからだ。
ぶん投げられようが壊されようが文句ひとつ言わず、いつだって空想世界という『無限の彼方』へ一緒に行って遊んでくれる、大切な友達だったからだ。
こんな映画は断じて打算では造れない。無機質なCGに血が通い、時に現実以上にリアルに見えるのは、作り手がこの映画の世界を、数多のキャラクターを残らず心底愛しているからだ。卓越した技術、繊細な感情表現は、彼らの魅力を余さず伝えたいという作り手の愛情ゆえだ。
この映画は、そんじょそこらのヒット映画とは心意気が違う。
鑑賞中に考えた。
僕のかつての友達は、実家の倉庫の中にぞんざいにしまわれて、きっと埃まみれのまま転がっている。
なんて仕打ちだろう。今度帰省した時は、せめて少し綺麗にしてやらないと。
<2010/7/11鑑賞>