劇場公開日 2008年4月5日

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「重厚な芸術的表現」モンゴル シンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0重厚な芸術的表現

2008年6月12日

知的

 12世紀モンゴル統一を果たしたチンギス・ハーン(テムジン)の、壮大な“叙情詩”です。
 昨年日本でもチンギス・ハーンの一代記を描いた、角川春樹制作の「蒼き狼」がありましたが、ロシア人監督セルゲイ・ボドロフの手による「モンゴル」は、比べ物にならない深遠な作品を作り上げました。

 人間描写の重厚さ,映像の荘厳さ,音楽の脈動、言葉にならない表現から、作品の奥行きが伝わってきます。
 作者の人格的な深みが、それらに現れるのです。

 絵画,音楽,舞踊など、言葉以外による芸術でも、作者の思想,経験,人間観などが、否応なく表出されるわけです。
 もちろんそこに技術(表現力)が伴いますが、技術とは実は作者の世界観そのものに他なりません。

 「蒼き狼」の出演者は反町隆史、菊川怜ら日本人で、セリフも日本語ですが、「モンゴル」は全編モンゴル語で、役者もモンゴル人や中国人などです。
 目のぱっちりした現代的な美形ではなく、いかにも12世紀のモンゴル人顔をした俳優陣が、リアリティある重みを感じさせてくれます。

 アジア人役者の中から主役に抜擢された浅野忠信は、テムジンのカリスマ性を見事に体現していました。
 モンゴル語のセリフを習得し、乗馬やモンゴルの殺陣も自ら演じています。

 「蒼き狼」では、テムジンの幼少期から国家統一までの史実やドラマを、分かりやすく描いていたのに対し、
 「モンゴル」はそれらを大幅に省略した分、テムジンの精神的な世界を表現していました。

 テムジンの生涯には空白の期間があります。
 ボドロフ監督は、その間彼は投獄されていたのではないかという説を取り入れ、映画の重要な部分に据えています。

 獄中でテムジンは修行僧のように瞑想を深め、国家統一のための哲学を確立していったといいます。
 まるで石仏のようなメイクと、浅野忠信の存在感は印象的でした。

 勇猛さと慈愛を併せ持ち、独創的で自由な人間・テムジンを描き出した大作は、アカデミー外国語映画賞候補作です。

シンコ