劇場公開日 2009年2月7日

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「動物そのものを餌にして、観客動員を取ろうと意図したシーンが目立って、肝心の動物園再建のストーリーが薄くなったと思いました。少々ストーリーを欲張りすぎ。」旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5動物そのものを餌にして、観客動員を取ろうと意図したシーンが目立って、肝心の動物園再建のストーリーが薄くなったと思いました。少々ストーリーを欲張りすぎ。

2009年1月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 次郎長三国志ではテンポのいいカット割りを見せてくれたマキノ監督でしたが、本作は少々ストーリーを欲張りすぎたようです。
 観客が期待しているのは、閉園に追い込まれていた旭川動物園が、どんな発想の転換でよみがえり、日本一の観客動員数に至ったか。プロジェクトXのような展開を望んで入るはず。
 けれども本作は、動物そのものを餌にして、観客動員を取ろうと意図したシーンが目立ちました。前半スタッフと動物の触れあう姿や動物にちなんだエピソードが長めに挿入されて、メインであるべき「ペンギンをどうやって空に飛ばしたか」というエピソードが弱まってしまったところが残念です。
 またラストの園長が退職するシーンも、園長の話ではないので不要なのではないでしょうか。
 閉園に決まりかけていた動物園なのに、市長が変わっただけでトントン拍子に行動展示に向けて改築が決まるなんてリアルさに欠けます。もう少し市議会や当局のなかで廃止推進論者との丁々発止があってこそ、動物園がリニューアルしたときの感動が高まるというものですよ。

 また動物園廃止の根拠として、採算や動員数だけでなく、動物園の存在自体を疑問視するグループも登場させて、市民の一部からも動物園廃止が自然保護という大義名分でも進められてしまうことが描かれています。
 そもそも野生の動物を檻に閉じ込めて飼育し見せ物にする動物園自体を自然の破壊者だと糾弾する動物愛護の市民運動グループは園長を糾弾するのですね。
 でも、トキの保護のように普通自然保護団体は、野生の絶滅機種の保護のために運動することが常であり、この作品の登場人物のように何がなんてでも動物を檻に閉じ込めるのは反対するという保護団体はないだろうと思いました。
 (でも特定非営利活動法人 アニマルライツセンターという団体があるようです。)
 市民運動グループの抗議シーンが、すごくベタで、苦笑してしまいました。

 シナリオはいまいちでしたが、演技の方は皆さん頑張っています。西田敏行の園長役は、予想通りツボにはまっています。ゴリラに口移しで人工呼吸するシーンもありました。またゴリラ飼育係を演じる岸部一徳はゴリラ舎に入り浸って、ゴリラと抱擁したり添い寝する体当たり演技に挑戦していました。(ただこのゴリラかぶり物の可能性有り)
 ゾウの飼育係を演じる長門裕之は、実際にゾウ(これは本物)と触れあうシーンを堂々と演じました。動物園の話なので、苦手な俳優さんにはきつい仕事だったでしょう。

 物語の中心で輝いていたのは、たくさんの動物たち。猛スピードで空へ向かって飛ぶペンギン、雪玉を投げるゾウなど、映画でしか観ることのできない動物たちがスクリーンで待っています。撮影スタートの半年前から、映画用HDカメラを4台用いて、別働隊で各地の動物園の映像を撮りためていったそうです。
 動物たちの中でも、チンパンジー夫妻の名演は感動しました。奥さんチンパンが妊娠中毒にかかり極端な食事制限を受けたのです。餌をくれ~と激しく叫ぶ奥さん。それを見つめる飼育係はただ泣いて詫びるばかりでした。そのとき夫のチンパンがそっと自分の餌を妻に差し出したのです。そして手をつないで頑張ろうねと慰めたのでした。このシーンはじ~んときましたね。

 改めて旭山動物園で起こったことをこの作品で知ったいま思うことは、「THINKBIG」夢を持つことの大切さですね。動物園の若手スタッフ吉田が初めてペンギンが空んだらどうかとスタッフに提案したとき、みんながバカにしたのは当然でしょう。しかし園長は、吉田の常識を逆転した発想に着目して、スタッフ全員集めます。そして自分たちが夢に描いてる動物園のイメージを絵に書かせるのです。ここから行動展示のアイデアが生まれました。そして吉田のペンギンが空を飛ぶというアイデアが新市長の心を引きつけ、見事動物園の復活の牽引力となったのでした。
 いまどの地方都市も財政難で四苦八苦状態です。でも市営旭山動物園のように、赤字だからといってすぐ廃止や補助金づけにするのでなく、創意と工夫があれば切り抜けられるはず。格差や派遣切り捨ての問題も、援助ばかりでなく、いかに自立していくが大切かか、この物語で考えさせられました。

 なお、柄本が演じた劇中次第に絵の才能を開花させ、絵本作家に変身する飼育係・臼井は実在します。その人とは旭山動物園の飼育係を務め、現在は人気絵本作家として活躍中のあべ弘士。動物を描いたら、この人の右に出る者なしとも言われています。映画では、ぺんぎん館の新設時に臼井が壁画を描くシーンがありますが、ここに映るペンギンの絵は、あべ自身の手によるものだそうです。

☆「旭山動物園を一躍有名にした“行動展示”とは?」
日本の動物園で一般的な、姿形を見せる「形態展示」に対し、旭山が世界で初めて生み出した、動物本来の行動や能力を見せる独自の展示方法が「行動展示」。野生で暮らしている現場を再現し、そこでの生活スタイルを観客に見せるという革命的な考え方から誕生した。空を飛ぶかのように自由に泳ぎ回るペンギンを水中のトンネルから見たり、地上17メートルに張ったロープを伝って悠々と移動するオランウータンの姿を下から見たりすることができる。猛獣の場合も、地面につくったガラスのドームの中から、歩き回る姿を観察できる。冬のペンギンの運動不足解消から始められた散歩は人気で、積雪時に限り開催される他、「もぐもぐタイム」と題した、食事時間を公開する催しも行われている。旭山動物園の行動展示は今後の動物園展示の指針として国内外の動物園関係者が視察に訪れるなど注目されている。

流山の小地蔵