「宗教って、神様って、平等って、赦しって。」シークレット・サンシャイン いきいきさんの映画レビュー(感想・評価)
宗教って、神様って、平等って、赦しって。
イ・チャンドン監督の作品は強烈だったオアシスしか観たことないが、
オアシス同様にグヮン、グヮンと揺さぶられた。
事故で夫を亡くしたシネ(チョン・ドヨン)は夫の故郷で再出発するために、
息子ジュン(ソン・ジョンヨブ)と
ソウルからミリャン(密陽)へ引越しをする途中に、
車が故障してしまいレッカー車を呼ぼうとしていると、
自動車修理工場を営んでいるジョン・チャン(ソン・ガンホ)がやってくる。
彼は親切にしてくれ、街についてからも世話をやいてくれ、
ピアノ教室も開き、順調そうな生活を送っていたが、ある時息子が・・・。
息子が、シネが車から降りるシーン。
息子が父親のイビキを真似し、そんな息子を真似するシネ、などなど、
つまんない作品だと終盤になると覚えてないことも多いような僕が、
序盤の印象的でもないようなシーンが物語が進むと、
無駄のなかったシーンの連続だったということが分かり、蘇ってきて、
残酷に人間の本質を描いているようで、それでいて美しく、
恐さすら感じてしまう。
絶望の淵に立ち、壊れてしまうシネ。
何も出来ずに傍にいるジョン・チャン。
序盤から自分を作っている様な主人公のシネも、
優しくしてくれるジョン・チャンをはじめとしたミリャンの人々も、
少しずつ何か気持ち悪いというか、観てて居心地が悪い。
普通なようで気持ち悪いようで、どこか変な感じを漂わせている。
それは何かあると思って観ているからか、
現代の居心地の悪さか、シネの居心地の悪さが出ているのか。
中盤で宗教に救いを求め表情が変わっていくシネにも、
そんなことじゃないんだろうなと、何を描こうとしているのか、
イ・チャンドン監督の作品を知っていると、身構えつつ観ていると、
あるきっかけでまた壊れていく。
はじめは薦められた宗教の勧誘をこばんだシネが神を信じ、愛し、
癒されていく先にあるものは、赦そうとする気持ち。
しかし、発せられた言葉に、絶望感を味わい、また壊れていく。
赦すとはどういうことなのか、シネは神ではない。神は平等なのである。
空を睨んでシネは神を罵倒し、もがき苦しみ、光を求める。
そして、冒頭では空を見つめていたカメラも、
その空から降り注ぐ光を追い求めていたように、ラストで着地する。
何を信じて、何に救いを求めればいいのか、
矛盾を感じた時どうすればいいのか。
おかしいと思ってしまう赦しを提示し、
複雑になりすぎているような世の中で、何をあなたは信じますかと、
監督に問われているようである。
最初は下心から優しくし、近づいたかもしれないジョン・チャンが、
シネに特にこれということもなく寄り添っている姿は、
存在感を消し去ったように演じるソン・ガンホがただ傍にいることが、
平凡の男でもいてくれているだけで、救われているように感じる。
あなたの幸福とはこんなことではないですかと、優しさを感じさせ、
ぐるりのこと のリリー・フランキーも想起させるようで、
誰かに寄り添い、寄り添って貰いたいと思い、
時代が求めているのはこんな男なのかもしれないと思う。
ぐるりのこと のラストのセリフを思い出す。
デリケートな内容で、人間の残酷さだけでなく、
やさしい温かさを描くイ・チャンドン監督の思いをしっかりと受け止めて、
全身で喜怒哀楽を表現し、カンヌ国際映画祭で主演女優賞を獲得したという
チャン・ドヨンの素晴らしい演技に圧倒され、
抑えた演技で見守ってくれるソン・ガンホに惚れる。