劇場公開日 2008年5月31日

「同じ海坂藩の血が共鳴した!」山桜 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0同じ海坂藩の血が共鳴した!

2021年9月1日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

キネマ旬報では
38位と高い評価ではなかったが、
同じ庄内藩(海坂藩)出身の作家、
藤沢周平原作映画として鑑賞。

原作は短編とのことで、話の展開は単純だ。
演出の拙さも多々感じられたが、
冒頭で出会った二人が最後にどう一緒に
なれるのか、興味深く観ることが出来た、

ただ、そもそもが藤沢作品では、
庄内人の気質がそのまま反映されている
ような気がして、他の映像化作品でも、
ゆっくりでのんびりした気質、
そして寡黙だが忍耐強い、
とのイメージがある。この作品でも
その影響か、前半は冗長だったものの、
後半からは作品の世界に引き込まれ、
彼の無事を祈る主人公の願掛けのシーン以降
は涙なくしては見れなかった。

主人公の母親の「貴女はほんの少し廻り道を
しているだけなんです」との
セリフもとても良かった。
全ての人に、たとえ遠廻りしてでも
幸せが訪れて欲しいと思わせてくれる。

この映画の2年後公開の同じ藤沢周平原作作品
「花のあと」と共に桜がモチーフに
なっていたが、
「花のあと」では、結ばれなかった男性との
過去の想いを断ち切る、
いずれ散る儚さの象徴として、
そして、この作品では、たとえ遠廻りしても
桜の花のようにまた開花する時は必ず来る
との再生の象徴として、
描かれているように思えた。

ところで、最終版になって
かつての縁談の相手の母親役として
富司純子が登場したのには驚かされた。
同じ藤沢周平原作の「たそがれ清兵衛」の
ラストシーンでの岸惠子の登場が
思い出されるが、
この作品でも締めに相応しい俳優による
格調高いエンディングに繋がった。

さて、この作品のラストシーン、
最後の顔を田中麗奈ではなく、
東山にした監督の技量は気になるものの、
解釈を観客に託したかに思えた海外作品
「スリー・ビルボード」とは
違う意味ではあるが、
二人の結末までを、あえて描かない演出は
上手い選択で、余韻がより深まった。
この作品の場合は、
二人はその後一緒になり幸せになった
ことだけは確かなのだから。

 11/28追記
原作本を読みました。「時雨みち」の中の
一話でしたが、かなりの短編で、
弟が東山の優れた人物像を姉に語る前提も、
私服を肥やす重臣と夫の関係や、
東山がその重臣を斬る切っ掛けになった
農民の悲惨な状況を見て物思いに耽る
エピソードも無く、
また、心に残る、母親が
「貴女はほんの少し廻り道をしてるだけ
なんです」と語る場面もない。
原作では、主人公自ら
廻り道をしているのではないかとの
自問があるだけである。
そして何よりも、原作同様ではあるが、
結果を描くことなく、
二人はその後一緒になって幸せになったと
観客に確信させるエピローグを、
更に分かりやすく描いた手法は見事だった。
ある意味、この原作は長編に書き直す前の
メモ集のような感じさえある。
そこをこの映画は、
映像作品としてオリジナリティを出すべく
別の次元に原作を改変してしまう作品を
多く目にする昨今、
原作の心を尊重して
藤沢周平の世界に心地良く浸らせてくれた
上手に肉付けした作品に思える。

KENZO一級建築士事務所
こころさんのコメント
2021年9月12日

KENZO一級建築士事務所さん
コメントへの返信有難うございます。
NHKドラマ版「蝉しぐれ」(内野聖陽さん・水野真紀さん)お薦めなんですね。
美しい着物姿(所作の美しさかなんとも言えずいいですね✨)に魅せられました。
※富司純子さんでしたね。。大変失礼致しました💦

こころ
こころさんのコメント
2021年9月11日

KENZO一級建築士事務所さん
早々の共感有難うございます。
富士純子さんのご登場、私も驚きました👀
優しさと気品に溢れたとても素敵な女優さんですよね✨

こころ
NOBUさんのコメント
2021年9月1日

今晩は。
 ”そもそもが藤沢作品では、庄内人の気質がそのまま反映されている”
 仰る通りでして、私は鶴岡市で学生時代を過ごしましたが、ノンビリとした方言”みっこいのう・・””しょすのう・・”とは裏腹の、武家社会の名残を感じる事が多かったです。商人町の酒田市とは気風が違いましたね。
 その後、ご存じの通り鶴岡の羽黒は、映画のオープンセットが出来たようで、邦画の時代劇で良く使われているようですが、私は残念ながら行った事はありません。藤沢さんの著作は殆ど読んでいますが、(年代的に古本屋で購入した作品が多いです。)武家と、市井の民の姿を鮮やかに描いた作品群は病みつきになりましたね。長くなりました。では。

NOBU