劇場公開日 2008年12月5日

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「やり続けるってことは、こういうことなんだ!」ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト jack0001さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5やり続けるってことは、こういうことなんだ!

2008年12月14日

楽しい

単純

興奮

こだわりが重要だ。
何かを極める為に、時として人はクールに徹しなければならない。
世界を相手に駆け巡り、大盤振る舞いをする人達がいる。
オスカー受賞監督マーティン・スコセッシMartin Scorseseと、現在最も偉大なロック・バンドであるローリング・ストーンズ;The Rolling Stones、この2組による夢の競演。
どちらがクールさを保持できたのか?

ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト;Shine a Lightは、言わば意地のぶつかり合いのような映画である。
事の発端はミック・ジャガーからのオファをスコセッシが受諾した辺りだという。
スタジアム級コンサートの映像化にこだわりを持ったミックに反し、オーディエンスとの接近と臨場感をミックスした構想を練るスコセッシ側。
セットリストが本番直前30分まで手元に上がってこない故のスコセッシの苛立ち、陰で支えるカメラスタッフとの敏速なやり取り、何となく煙に巻いて楽しんでいるかのようなミックの素振り・・・各々が訳ありな敏腕ビジネスマンにも思えてくる。
食い違う意見とその駄目だし振りを、躊躇なく最初の約10分間の映像に収めている。
そんな前振りと、合間には過去の映像を掘り起こして充てていくカット割り、スコセッシ流なこだわりが冴えわたるライヴ映像である。

ニューヨークのビーコン・シアターにて、およそ2000人規模のキャパで執り行われたライヴは、スクリーンに迫るミックやキースの息吹や音像で、れっきとしたナマモノであることを証明している。
様々なスキャンダルや都市伝説並みな噂も絶えなかった彼らが、アリーナやスタジアムでは米粒大ほどにしかお目にかかれない彼らが、スクリーン前面に映し出される。
生身と全霊を傾け演奏する彼らの瞬間を、スコセッシのカメラクルー達はしたたかに追い続ける。
特別派手なテクニックや編集をしたようには見受けられず、ストレートなカットで迫るのだ。
しかもオーディエンスの邪魔をしないようにと、細心な心使いと控えめな配置で撮ったというから驚きである。
スコセッシの音楽に対する造詣の深さは本物である。
モンスター級な醍醐味だ。

音像的につかみどころが無かった近年のストーンズ個々のキャラクターである。
ロン・ウッドやキース・リチャーズのギター・ワークが一体どのようなものか?チャーリー・ワッツはどこまで体力的についてきてるのか?などの、細かい表情や描写が一目出来て、微笑ましい瞬間などもある。
意外にも今回の流れを肯定的に捉えているのはキースのようであり、ステージで音楽を心底楽しむ姿勢はむしろ優等生的だ。
永遠の不良という憧れの称号を持つ彼が、実に献身的で紳士に見えてしまった。
その分、ミックのアグレッシヴさが冴えわたっている。
既に還暦を越えている彼らにおいて、切れのあるアクションや見事に均整のとれたシルエットなど、ミックのシンボリックな立ち位置は信じられないほどに明確だ。
反逆児のように魅力的な人物として、この映画の中心にいる。
どうやらこのバンドの全権はミックにあるようで、他のメンバーはそんな彼の仕切りを尊重しながら存続してきたようだ。
一人の人間のリーダーシップが全てを左右することを、この映画の中で学べるとは思いもしなかった。

途中でゲスト出演するジャック・ホワイト(ホワイト・ストライプス)、バディ・ガイ、クリスティーナ・アギレラの3組が更にステージを演出し相乗効果をもたらす。
ゲスト各々は全く違ったタイプのアーティストにも関わらず、そのどれとも納得いく絡み方が出来るというのが、ストーンズの利点だろう。
ルーツ・ミュージックへの憧憬とともに時代性も無視せず取り入れてきた、そんな彼らの包括力は世界最高峰バンドならではである。

音の処理に至っては、映像にリンクするかのように独特なブースやカットを施している。
ロニーやキースが楽曲ごとにどのようなパート分けをして演奏するのか?改めて分かりやすく聞こえた。
オーバードライヴするキースのギター、その絶妙なルーズさもダイレクトに分かる。
ミキシングは名プロデューサー、ボブ・クリアマウンテンによるもの。
ストーンズを始め大物ミュージシャンとの仕事が目立つ人だ。

手抜き一切なし、ライヴは生身なぶつかり合い、映像の無駄の無さ・・・音楽映画のすべてが凝縮された一作だ。

相手が誰であろうが、何が待ち構えようが、決して支配されない。
自分の信じたものをやり続ける大人達は、実に潔く見える。

やり続けるというのは、相手を認め、直すところは直し、そして主張すべき時は戦う・・・
やり続ける為に必要なのは、ただ、ひたすらやり続けようと決めて、とにかくやるだけなのだ。

jack0001