「女性に送る、体験型映画」4ヶ月、3週と2日 Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
女性に送る、体験型映画
これはズバリ体験型映画だ!観客(特に女性)は、ヒロイン、オティリアの背中を追いながら、彼女の苛立ちや焦燥感に自分自身をシンクロさせて行く。彼女が足早に歩けば、自分の呼吸も速くなる。彼女が怒りを感じれば、自分もこぶしを握り締める。彼女の前に立ちはだかる日常的な苦難を、私たちは“共に”考え、切り抜けて行く。
オティリアは「できる娘」だ。問題を1人で解決する知性と行動力を持っている。彼女は、寮のルームメイトの中絶を手伝うために朝から奔走する。もしも物語の舞台が現在の東京だったら、これほど苦労はしなかったろう。しかし、そこは中絶が違法であるチャウシェスク政権下のルーマニア、オティリアの長い長い1日の物語だ。
私たちは、説明的なセリフや映像が一切ない中で、オティリアと、ルームメイト、カビツァの行動だけで、状況を把握していかなければならない。オティリアは、恋人から金を借り、中絶場所にするホテルを探し、堕胎医に会いに行く。だが、これらの行動がことごとくスムーズにゆかず、彼女の焦りと苛立ちはつのって行く。しっかり者のオティリアの行く手を阻むのは、官僚的なホテルのフロント係であったり、事情を知らない恋人であったり、果ては中絶を受けるカビツァ本人だったりする。
本作は、中絶の是非や、共産主義の社会状況などを批判するものではない。ムンジウ監督が描いたのは、世間知らずな少女たちの危うさだ。誰に相談することもできない中で、「これでいいと思った」という、あやふやな判断で行動することの恐ろしさ。
だが、彼女たちは負けない。私たちは、ハンディカムで長回しに撮影された、オティリアの後姿をひたすら追い続ける。それは、オティリアが前へ前へと進んで行くからに他ならない。
これは決して憂鬱な作品ではない。本作を“体験”できた人だけが解る、全ての女性たちへ向けた応援歌であることを。