劇場公開日 2008年6月28日

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「家族のリアル」歩いても 歩いても 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5家族のリアル

2012年10月28日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

怖い

幸せ

15年前に亡くなった長男の命日に、良多は再婚相手と連れ子と共に実家に帰郷する。
集まった家族の1日の出来事…。

是枝裕和監督の演出が素晴らしい。
何か大事件が起こる訳でもない家族の姿をじっくり見つめ、見る者はスッとこの家族の中に入り込んでしまう。
俳優陣のアンサンブル演技が絶品。
夫婦役の阿部寛と夏川結衣は、TVドラマ「結婚できない男」での共演もあり、息ぴったり。
とりわけ、樹木希林とYOUのやり取りは演技すら感じないナチュラルさ。

この映画、単なる家族愛の物語と思ったら、肩透かしを食らう。
至る所に家族の本音がチクチク見え隠れする。(勿論、その根底には“家族”というものを感じるが)

特に印象に残ったシーンがあり…
15年前亡くなった長男は海で溺れた少年を助けて命を落とした。
その少年は毎年毎年、命日に拝みに来る。
父・原田芳雄は何年経っても不愉快。「何であんな奴の代わりに息子が死んだんだ?」
母・樹木希林は「来年も必ず来てね」と温かく接する。
息子・阿部寛は「もう来て貰わなくてもいいんじゃないか?彼だって辛いだろう」と諭す。
すると母は静かに「だから来て貰ってんのよ。10年やそこらで忘れて貰っちゃ困るのよ」…。
何年経っても息子を失った哀しみと怒りを忘れない母の本音に、樹木希林の名演も相まって、ヒヤリとさせられるものがあった。

家族または親戚が集まると、綺麗事だけじゃない感情がじわじわと滲み出る。
細かい事が気になったり、いがみ合ったり、ヒソヒソ声で陰口叩いたり…。
それでも家族は愛しく尊い。
あの時ああしてやれば良かった…と、後悔の無いように。

誰もが身に覚えある、家族のリアル。

近大