マイ・ブルーベリー・ナイツ : 映画評論・批評
2008年3月18日更新
2008年3月22日より日比谷スカラ座ほかにてロードショー
ウォン・カーウァイの新たな旅立ちを告げる傑作
突然恋人に裏切られ、夜のニューヨークの街角に泣きながら立ちつくすはめになったエ
リザベスだが、カフェのオーナーに慰められ、彼とのあいだでほのかに芽生えるかのようだった恋愛感情を断ち切り(?)、単身アメリカを横断する旅へと出発する。だけど行く先々で彼女が出会うのもまた、さまざまな“傷心”を抱える男と女たちだった……。
すでに世界中で名前の知れ渡った香港の映画作家が、ついにハリウッドで活躍する俳優
たちを使い、アメリカでのロケを敢行した全編英語による話題作。当然のように“一体どんな映画になるのか?”と僕らは期待と不安の入り混じった思いで本作の公開を待ったわけだが、そんな過剰な気負いこみに鮮やかな肩透かしを食らわしてくれる映画だ。要するに、本作はこれまでにウォン・カーウァイが描いてきた世界の簡潔なダイジェスト版のような内容になっていて、その肩の力を抜いた疾走感が僕には心地良かった。「花様年華」や「2046」など完成度の高い濃密な作品が続いたカーウァイだが、もともと軽快なタッチでさらりと映画を撮るのが彼の本領だったし、当初はニューヨークで全編を撮る予定があまりにコストがかかるのでロードムービーに切り換えた……との噂(?)もうなずける、いい意味でのフレキシビリティが映画を魅力的にしている。そう、本作はウォン・カーウァイの新たな旅立ちを告げる映画であり、彼の2本目のデビュー作ともいうべき傑作なのだ。
(北小路隆志)