「二人の再生の足跡が温かい」しあわせのかおり talkieさんの映画レビュー(感想・評価)
二人の再生の足跡が温かい
店の味の人気度に着目して、あれだけ熱心に出店を働きかけていたのに、店主の健康状態が良くないと知ると、途端に掌を返したように、見切りをつけるー。
デパート側の、そのドラスティックさに、嫌気が差してしまったのかも知れません。貴子としては。
その貴子を演じた中谷美紀が、なんと言っても好演です。
夫の急逝で患った感情障害を、小上海飯店の味に魅せられて、その料理に打ち込むことで、すっかり克服する姿が印象的でした。評論子には。
その小上海飯店で、王(藤竜也)に大恩のある社長子息の記念の会食が開かれることになる―。
ふかひれや乞食鶏など贅を尽くした料理の後に、くだんの社長の達っての希望で提供された卵とトマトの炒め物。
それは、もともと、小上海飯店の定食にも出てくる、ありふれたメニューでしたけれども。
贅を尽くした料理を競い合うように平らげた後なのに、何の変哲もない卵料理が会席者を心底から感動させる、そんなシーンが素敵でした。
まったく予期せず、特別注文の卵とトマトの炒め物を調理することになった王が、中華なべに向かうため、それまで脳梗塞の麻痺で手放すことができなかった杖を、そっと柱に立てかけて置き去るシーンがありました。
そのシーンは(王の所作なのではありますけれども)あたかも貴子が心の障害を克服したこととオーバーラップするように、評論子には思えて、とても印象に残りました。
本作の全編を通じた「温かさ」ということでは、秀作であったと思います。評論子は。
(追記)
おいしそうな料理がたくさん出てくる映画です。空腹で観ると、とても辛い思いをします(実体験・泣)。真剣にストーリーに集中したい向きは、何かを食べて、おなかを満たしてから鑑賞されることを、強く強く、もっと強くお勧めいたします
(追記)
「鍋振り」は、中国料理の基本と聞きますけれども。
実際、新米の料理人は、砂を中華鍋に入れて鍋振りの練習をするとかで、砂と鍋肌との摩擦で、鍋がピカピカになるとも聞きます。
砂を使うのは、食材を節約するということのほか、意図的に鍋を重くすることで、筋力を養うという意味もあるようです。
(追記)
本作の劇場公開は2008年とのことで、当サイトに会員登録するはるか以前のその頃に劇場で鑑賞したのが初観になります。
別作品『おくりびと』の公開がきっかけとなって、久しく足が遠退いていた劇場に、また足を運ぶようになった頃(評論子にとっては、いまも続いている、いわば「評論子の第三次映画ブーム」)の鑑賞作品として覚えていました。
数年ぶりにDVDで再観でしたが、往時の感動が少しも色褪せることなく甦(よみがえ)るような、素敵な一本でもありました。