「間違いなく心に残る作品」容疑者Xの献身 nnrさんの映画レビュー(感想・評価)
間違いなく心に残る作品
作品をとおして静謐で特別な雰囲気をまとっていて素晴らしい。
役者の演技も素晴らしく、特に、やはり堤真一の演技は格別だった。最後の慟哭のシーン、計画が台無しになったことに対する怒り、悲しみ、無力感、それでも靖子が自分のために見せてくれた誠意(振り向いてくれたこと)が心のどこかでうれしくて、でもそう感じてしまっている自分に対する落胆、いろんな感情が言葉なしで伝わってくる。
そしてラストで雪が降り、その光景が奇しくも凶器となったスノードームと重なるが、それを自分がどう感じているのかわからないくらいいろんな思いがごちゃ混ぜになった。
つまり石神と靖子はどうすればよかったのだろうか、と。
靖子は、自首をすれば石神の思いと行動を裏切ることになると分かっていた。それでも石神の想いを知った靖子は居てもたってもいられず、自供してしまう。それは靖子にとって、良心の呵責であるとともに石神の想いに対する誠意でもあったはずだ。
石神も、計画を完璧に遂行するには、靖子にも自分は靖子に異常に執着しているストーカーであると最後まで思いこませればよかった。そうすれば靖子は自供することがなかったかもしれない。靖子の生活を守ることができたかもしれない。しかし、そこまで人は強くない。愛する靖子にだけは知っていてほしかったのだと思う。
そして湯川は、石神の靖子に対する深い愛情と犯行の全貌を暴いた。石神の犯行を靖子に話さず、石神の思い描く通りにことを進めることもできただろう。でもそれでは石神があまりに報われない。石神に『僕はしゃべったよ、彼女に。』と言い放つシーンで、湯川は、石神に殴られる覚悟をしているかのような表情だった。石神の想いを踏みにじることになるかもしれないと覚悟の上での行動だったのだ。湯川のこの選択が間違いだなんて一体誰に言えるだろう。
靖子が自供しなければ、石神が靖子に自分の想いを告げなければ、湯川が靖子に話さなければ、もっと良い結末があったのか。
無数にある選択肢のどれがベストだったのか。その答えはどこにもない。
『愛?確かにそれは非論理的なものの象徴だ。例えば、こんな二次方程式があったとしよう。”ax^2+bx+c=愛”こんな問題は誰にも解けない。』
つまるところ、愛とは”さっぱり分からない”のである。