「B級臭漂わせながらも」第9地区 肉ネ~ムさんの映画レビュー(感想・評価)
B級臭漂わせながらも
紛れもない良作。
主人公は平凡でちょっと軽率なお調子者。とくに善人でもなくかっこよくもないし肉体的にも精神的にも強くもない。B級映画ゆえの甘さかと最初は思うがさにあらず。リアルさに一役かっている。
いっぽうのエイリアン。見た目はいかついがボロをまとっていたり、飢えでガツガツしていたり。人間的でリアル。ここでもB級映画の危うさを感じさせるがこの生身な生体があとで効いてくる。
ちなみに、地球に来るほどの知性を持ちながらも粗暴でみすぼらしいエイリアンに違和感を覚える人もいると思うがそれは違うと思う。1000年後、人類はとてつもないテクノロジーを手に入れているだろうが、1000年くらいでは生物学的には進化していない。ホモ・サピエンスはホモ・サピエンスだ。いまだって人類は月に人を送れるが、ほとんどの人はロケットを作るほどには賢くないのだから、賢くないエイリアンがいたってなんの不思議もない。恐らく本作品のエイリアンとホモ・サピエンスの種としての知能はだいたい同等なのだろう。ただエイリアンのほうが少しだけ早く(100年か千年か1万年か)産業革命を経験したにすぎない。
同じホモ・サピエンスだって、ちょっとした差でアジア・アフリカは奴隷に落とされたのだ。
さて冒頭、なんであんな不気味で粗野で得体のしれないエイリアンを劣悪な環境だとしても保護するんだろう、と多くの人が思うことだろう。
しかし後半、そんなエイリアンの境遇にいつのまにか同情し共感を覚えることになる。
人間から見たら醜い昆虫的エイリアンにまさか感情移入しようとは...
対して、強欲で冷酷な人類に憎悪すら感じてしまう。だけどこの作品に出てくるほとんどの人間は恐らくさほど悪人ではない。職場では普通の上司や部下だし家庭では普通の父や息子であろう。
自分と違う(と感じる)他者に対する非寛容さと冷徹さは、人類に普遍的なものである。
植民地にする側される側、迫害する側される側。立場によって見方が変わることを、まざまざと見せつけらた。