劇場公開日 2011年8月12日

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「個人的な感想です」ツリー・オブ・ライフ AKIRAさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5個人的な感想です

2024年7月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

この映画は他の方も言われているように、『旧約聖書のヨブ記』が題材となっています。ですから、欧米人が当たり前のように接している旧約聖書に触れたことのない我々には、全くわからない世界感が描かれていると思います。

さらにこの監督は、聖書や神を、ただ単に原理として受け入れるのではなく、人間と宗教の関係(信仰)をかなり皮肉を込めた形でとらえていると思います。暗に批判しているからこそ、よりわかりづらいのかもしれません。

(例えば冒頭の環境ビデオのようなかなり長いシーンも、この世界は聖書に書かれているように神が一週間でチャチャッと造ったのではなく、ビッグバンから始まり何億年という、ものすごく長い年月かけて今に至ったのだと暗に言っているようで、実際、旧約聖書には人間の前に恐竜がいたなどとは出てきませんので、強烈な皮肉を込めた映像となっていると私は思います)

旧約聖書は、新約聖書(キリスト教)の前にあった聖書で、現在主にユダヤ人や(キリストもユダヤ人でしたが)エホバの証人の方々などが原理として信奉している書物です。「約」=約束であり、「訳」=神の言葉を訳しているというわけではありません。

天地創造から始まり、アダムとイブのエデンの園での出来事、ノアの箱舟やモーセの十戒など壮大な例え話(宗教関係の方すみません個人の感想です。)が書かれています。なんとなく聞いたことがあるという人も多いかと思います。(かくいう私も若いころ、なぜか毎週訪ねてくるエホバの方に長々旧約聖書の講義を受けたのですが…)

そして、その中で、『ヨブ記』という非常に理不尽な物語が一つあります。
それは、神を敬い正直者で、家族や使用人や家畜を愛し仲良く幸せに暮らしていた「ヨブ」に、神がその忠誠心を試すかように試練を与える物語です。

神は、ヨブの家畜を盗賊にすべて奪わせ生活の糧をなくし、愛する家族を殺し、ヨブの体にもひどい皮膚病を植え付け、「神よなぜ私を?どうか許してください」と助けを請うヨブを、非情にも何度も奈落の底に落とし痛めつけるひどい話です。

旧約聖書や「ヨブ記」がなぜ存在するに至ったのかと考えた時、それは、昔の人にとってもこの世界は、ヨブ記くらい生きるのにつらい世界だったからなのでは、と私は思うのです。

なぜ、こんなにも生きていくのはつらいのだろうか。真面目にただ一生懸命生きているだけなのに、夏は暑く冬は寒い。暮らしの糧を稼ぐのに必死で、盗みや暴力、災害や疫病に日々おびえて暮らし、愛する者は死んでしまう。「なぜなのでしょうか...」

その答えを書いた書物が聖書だったのだと、私は感じます。

私たちが他の動物と違い、知恵を持ってしまったのは、アダムとイブが禁断の実を食べてしまった(=人間が進化してしまった)からだ。

知恵を持たなければ、エデンの園の真ん中に生えている「ツリー・オブ・ライフ(生命の樹)」の実を食べ永遠の命が与えられたのに(他の生きもののように煩悩(自分の心を煩わせ悩ますもの)を持たずこの楽園をただ生きて、ただ死ぬことができたのに...。)

聖書から生きる意味を見つけるとするならば、原点に帰りただ自然に沿って生き、死んで土に還り、そこから草木が生えその実を鳥や虫が食べまた自然を延々と育ててゆくだけなのだ、それが永遠(とわ)の命なのだ、とそこには書かれているのかもしれません。

でも、知恵を持ってしまった私たちにとってこの世界は違った生き方を強いられ、毎日が理不尽なことで満ちています。神にすがっても神はなにもしてくれません(神の意志に背き勝手に進化した者など知らぬとでも言いたげに...)。

この監督の「シンレッドライン」という映画でも、命をかけた戦闘シーンには、勇壮なBGMがあるわけでなく奇跡も起こらずヒーローも登場しません。ただ南の島の自然があるだけです。

日々神に「成功」を祈った敬虔なブラッドピット演ずる父親も、成功も果たせず挫折します。祈りを捧げるのは神との約束=誓い(他人や自然に対する感謝の精神)であり、自分が成功を得るためやあの世で楽園に行くためでもないのに(宗教関係の方すみません個人の意見です)

ショーンペン演ずる主人公も、邸宅を構える生活を送るようになりますが心は満たされません。敬虔ですが煩悩にまみれてしまった父親との関係がトラウマになり、愛を忘れてしまったからだと思います。(だから成功を収めることができたのかもしれませんが)

それでもショーン・ペンは最後、救いと父への赦し(愛すること)を求め神にひざまづきます。彼は父を赦し愛すると誓えたのでしょうか。そして、神の意志に沿って生き、愛を取り戻せたのなら、彼(人類)は救われるのでしょうか。

主人公が救われたのかは、あなたのこれからの生き方に、監督は問いかけていると私は思うのです...

個人的な視点で長々すみません。読んでいただきありがとうございました!

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AKIRA