「食材はわりとオーソドックスなのに豪華なフルコース料理に仕立て上げた名料理人ジェームズ・キャメロン」アバター(2009) 盟吉津堂さんの映画レビュー(感想・評価)
食材はわりとオーソドックスなのに豪華なフルコース料理に仕立て上げた名料理人ジェームズ・キャメロン
映画の興行収入の世界記録を塗り替え、日本でも150億円超えのメガヒットを記録したのだけれど、自分はどうもあのパンドラの先住民族ナヴィのデザインが苦手で(笑)、長らく敬遠していた。
あくまで個人的な感覚なのだけれど、どうもナヴィのデザインが自分の中ではずっと「不気味の谷」だったのである(笑)。
ナヴィに対する苦手感から地上波放送すらスルーしてここまで来てしまったのだけど、先日最新作の上映に伴う期間限定のリバイバル上映が行われているのを知ってついに意を決して劇場まで足を運び、やっぱり食わず嫌いは良くないと痛感させられた!
莫大な製作費を注ぎ込んだ3DCG映像の凄さというのも確かに目を瞠るものがある。
でも、映画というのは結局は物語が面白いかどうかである。
そして、本作には映画の面白さ、物語の面白さというものがこれでもかと詰め込まれているのだ。
シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』、黒澤明の『七人の侍』、ルーカスの『スター・ウォーズ』など、優れた文学や映画の中で繰り返し語られてきた素材、ある意味では神話的構造と言ってもいい、観客を魅きつける普遍的な物語の要素が本作ではてんこ盛りなのである。
また、本作を観た多くの方が指摘しておられるようにパンドラの先住民ナヴィは明らかにアメリカ先住民を意識してデザインされている。
だからこの作品は『ラスト・オブ・モヒカン』や『ダンス・ウィズ・ウルブズ』、『ポカホンタス』のような、アメリカ先住民のコミュニティが白人を受け入れる物語の系譜にあるとも言える。
ちょっと乱暴な言い方をしてしまうと、物語としてはけっこうありがちと言うか、オーソドックスなのである。
食材自体は確かに食欲をそそるものではあるけれどそんなに珍しい食材ではなく、わりと普通にスーパーで売っているものと言ってもいいかもしれない。
ただ、本作の食材の中でスーパーでは絶対売ってないものが一つだけある。
それが題名にもなっているアバターというアイデアである。
自分の意識をアバターに転移するという斬新なアイデアによって、本作はテーマや物語の骨格がオーソドックスなものであるにも関わらず、先が読めない緊張感のある作品になり得ているのである。
本作は言わば、エンタメのフルコース料理である。
主人公の成長、恋、挫折、覚醒、壮絶な戦い、といったエンタメ料理が次から次へとテーブルに並べられ、そのどれもが舌鼓を打つ美味しさなのだ。
これだけのフルコース料理を中だるみせずにお腹いっぱいになるまで味あわせてくれるジェームズ・キャメロンはやっぱり名料理人である。
ただ、物語が普遍的なものであるだけに、これまで山のように映画を観てきたシネフィルのような舌の肥えた食通の人たちはいささか食い足りない思いをしてしまうかも知れない。
でも、質の高い王道の娯楽作品を映画館で上映するというのは映画産業にとって最も大切なことであり、こういう作品を作ってくれるジェームズ・キャメロンは映画産業の屋台骨を支えてくれる大黒柱のような貴重な存在なのである。
こういう王道の大ヒット作が映画産業を支えているからこそ、通好みのマニアックな作品も作ることができるのだ。
シネフィルの中には通好みのマニアックな作品ばかりを重視して一般受けした大ヒット作を軽視するような傾向がなきにしもあらずと思うのだけど、そういうシネフィル達だって回り回って大ヒット作に寄りかかっているのだと言ったら言い過ぎだろうか(笑)。
少なくとも自分はあんなに不気味で苦手だと感じていたナヴィも観ているうちにだんだん慣れてきて、とうとうネイティリのことを好きになってしまった(笑)。
あ、でもシガニー・ウィーバーのアバターはやっぱりまだ苦手かも(笑)。
盟吉津堂さん、コメントありがとうございます♪
本当にゲームの世界の様な映像で、映画でこういう世界観を描き切ったという点では他に類を見ない作品かも知れません!
先日放送していたタモリと山中伸弥教授の番組では「音楽」こそが生存競争に勝ち残るカギだったという様な事を言ってましたが、それも「虚構」と共通する点があるますね。

