「お父さんきつねががんばる」ファンタスティック Mr. Fox 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
お父さんきつねががんばる
今(2023/05)TikTokでWesAndersonインスパイアの動画が頻りにでてくる。
パターンがあって、シンメトリカルな(シンメトリカルでなくてもいいがバランスのとれた)背景で人を直立させたり横移動させたりする。
過発色させて画を暖色方向へVividにすることと、短いカットでつぎつぎに画を変えて発信場所の美点をアピールするのがポイント。
巧拙はあるがいずれも類同している。
BGMはすべて同じで、多数の映画音楽を手がけてきたフランスの作曲家Alexandre DesplatのObituaryという楽曲。フレンチディスパッチのサウンドトラックで、ピチカートがすがすがしい。
このWes Andersonチャレンジは外国の流行で日本製はほぼない。まれに日本のものもあるが圧倒的に外国人のほうがうまい。
こういったこと(YouTubeやTikTok)を見ても動画=映画は外国人のほうがうわてなんだな──と思ったりする。
撮影や編集もさることながらセンスがレベち。素人がつくった感じがしない。単に左右対称な背景の前に人を直立させて、それでWesAnderson風画ができるかっていうと、そうじゃない。人間が放つ雰囲気には格差がある。
また、WesAndersonインスパイア動画が日本で流行らないのは、根本的に日本人はWesAndersonが、それほど好きではないからだ──とも思う。映画ファンにとってもどかしいことはじぶんの嗜好が世間一般に趣味がいいと見なされる映画群と乖離しているのを思い知ること──だったりする。
じぶんはTikTokをインストールした状態のまま登録しないで使っていて、おすすめを眺めるだけだが、それでもおすすめはアルゴリズムをもち、時間によっても場所(位置情報)によってもデバイス(スマホ・タブレット・パソコン)によっても違うおすすめが出てくる。が、WesAndersonチャレンジは執拗に出てきてピチカートが耳に焼き付いてしまった。
こんな焼き付き効果があるんだからTikTokはミュージシャンにとって絶大な宣伝ツールなのはまちがいないだろう。
ぎゃくにその現象を冷静にみたときTikTokで流行ったような楽曲──という下げイメージがついてしまうこともわかる。
四六時中流れてりゃ、なんでも好ましく聞こえてくるわけで。
だいたいみんなにわかでAURORAが好きだって言いだしたんだがCureForMeのほんの一部分に集約される“好き”ならコンサートもたないわ。
それでも重回転やられると目や耳に焼き付いて好きなような気分になってしまうのは致し方ない。
結局、軽やかなピチカートとWesAnderson風の構図で、むしょうにWesAndersonが見たくなってしまったのだった。
じぶんは田舎の百姓なのでWesAndersonの魅力を理解していないが、レビューサイトを巡回したところ、日本でいちばん好かれているWesAnderson映画はこのファンタスティックMr.FOXだった。
とはいえ日本の映画レビューサイトはすべての映画評点が3.7近似値なので、なんの参考・指針にもならない。(=ぜんぶまあまあにすることを温厚な民度とみることもできるが、優柔不断とみることもできる。)
それでも僅かにファンタスティックMr.FOXの評点が他のAnderson映画よりも高かった。──なので、たぶんファンタスティックMr.FOXが日本ではもっともポピュラーだと思う。
なおimdbではブダペストがいちばん高かった。RottenTomatoesのトマトメーター(批評家評)ではムーンライズとファンタスティックMr.FOXがいちばん高かった。オーディエンススコアでは犬が島がいちばん高かった。ぜんぶ僅差だったが。
ファンタスティックMr.FOXの特長は、三次元、メトロイドヴァニア、なめらかすぎないストップモーション、そしてジョージクルーニー。
全体が把捉できる横移動ゲーム画面のような構図で、パペットをぎくしゃく動かす。コマ落ちがまさにWesAnderson風味を生み出し、ストーリーも緩くてほっこりできたが、ノアバームバックが脚本を書いていてモチーフが“家族”というあるていどの重さをもち、とてもノアバームバックだった。さすがノアバームバックだった。
面白い映画だったがWesAndersonは不幸な気分のとき楽しめない。と思う。お金があって将来の不安がない人でなければWesAndersonを心から楽むことができない。(個人的にWesAndersonはそういう映画だという気がしている。)
アニメつってもWesAndersonは画像(二次元)を動かしたい人じゃない。水や煙や炎もモノ(三次元)で表現する。モノの動きやモノの配置に気を使っていて、それが何となくカラー時代の小津安二郎を思わせる。どこが?なにが?──って説明はできないけれど絵面に小津っぽさがあると思うんだ。