「責めとケジメ。」マイ・ブラザー ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
責めとケジメ。
原版のデンマーク映画『ある愛の風景』を以前に観た。
さすがスサンネ・ビア、これほど過酷に人間の内面を
見せるのか、というくらいに辛い作品だった。
今回舞台を米国に変えて、豪華なキャストでリメイク
された本作だが、オリジナルとほぼ同じ構成ながらも
違う持ち味を発揮しており、これもまた観応えがあった。
ハッキリ違うのは、兄が戦場で体験した一部始終が
かなり前半の方で全て露呈されてしまう部分。
これで私達観客は、この兄がこれからどう家族と対峙
していくのかと頭をもたげる。だが待っていた家族には
分からない。あんなに優しかった夫が父が兄が、なぜ
こんなに変わってしまったのか。戦場で何があった?
そして原版ではラストも大きく違う。どちらかというと
兄という一個人に焦点を当て、彼の動きを追っている。
妻が全てを知ったあとに今後まだ続く苦しみが描かれ
一体どうなってしまうんだろうと心配になってしまうが
今作品では告白部分で終わるため、スッキリしている。
どちらも妻(家族)が彼の心の重荷を担う、というところに
共通するのは家族愛と今後生きるためのケジメである。
とても静かな反戦映画。しかし意図するものは大きい。
ふとしたきっかけで誰もが善人にも悪人にもなるという、
それまでの育ちや性格もあるだろうが、人間は誰しも
愛し愛されて心が育まれるものであることがよく分かる。
兄と比較されて自堕落な弟(ギレンホール出番多し!)も
自身の居場所を見つけてからはかなり落ち着いた行動
をとるようになる。親愛なる兄の死がきっかけにせよ、
彼を受け入れた家族の寂しさがそうさせたであるにせよ、
それは彼に本当の幸せをもたらしたのだ。
アフガンの戦場にそんなものはない。家族を守る自信と
人間の尊厳が儚く打ち砕かれ、あれほどの人物であった
兄を狂気へと追い込んでしまう。
今作が辛いのは、兄も弟も妻も、強いて誰も悪くないのに
皆が責めを負う理不尽な現実を突きつけられることである。
だから人間の尊厳を打ち砕く戦争を増やしてはいけない。
心のトラウマをそのまま放置し我慢し続けてはいけない。
戦争国家が抱える最重要課題がこの作品の中にはある。
(辛いけれどいい作品。主演3人がずいぶん大人になった…)