君のためなら千回でも : 映画評論・批評
2008年2月5日更新
2008年2月9日より恵比寿ガーデンシネマ、シネスイッチ銀座ほかにてロードショー
青空の下の凧合戦が「冬」の終わりを提示する「贖罪」の物語
青い空に揚がる凧。日本人なら寅さん映画などに登場する正月の風物詩で実にのんきなものだが、所変わって、アフガニスタンでは互いに凧糸を切り合う熾烈な「合戦」なのだ。だが、それは人間が人間を殺し合う残忍な戦いではなく、平和をホッと噛みしめるひとときでもある。その空の青さが目にしみる!
カーレド・ホッセイニのベストセラー小説を映画化。原作に登場するもっとも重いセリフを邦題とした本作は、飛翔する「凧揚げ」のイマジネーションをプロットのモータードライブにした「贖罪」の物語である。主人公が、アフガン内戦により離ればなれになった大親友への許しを請うため、「巡礼」のような気持ちで訪れるかつての故郷は、タリバン政権による戦火の傷跡が残り、子どもたちの嬌声が響かない。空も鈍色でどんよりとし、凧揚げさえも禁じられた世界だ。
「ネバーランド」のマーク・フォースター監督は、目を背けたくなるアフガンの現実を提示しながら、実にウェルメイドな物語に仕立て上げている。アメリカへ渡ってコミューンに住むアフガン難民の生活を生き生きと映し出しながら、「終わりのない冬はない」という感涙のメッセージを突きつけるのだ。邦題となったラストラインが心にしみる。
(サトウムツオ)