劇場公開日 2007年12月22日

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その名にちなんで : インタビュー

2007年12月7日更新

長編デビュー作「サラーム・ボンベイ!」(88)でカンヌ映画祭カメラドール(新人監督賞)、「モンスーン・ウェディング」(01)でベネチア映画祭金獅子賞を受賞し、「ハリー・ポッター」の監督候補にも名前が挙がったインド出身の実力派女性監督ミラ・ナイールが、アメリカに移住したインド人家族の絆を描いた感動作「その名にちなんで」。本作について、監督に話を聞く。(編集部)

ミラ・ナイール監督インタビュー
「誰にでも起こりうることを、観客が共有できる映画を作りたいのです」

インドから渡米した家族の30年に渡る物語
インドから渡米した家族の30年に渡る物語

本作は、監督と同じくインド出身のピュリッツァー賞作家ジュンパ・ラヒリが03年に発表した同名ベストセラー小説が原作。

「本を読んだ当時、私もちょうど愛する人を突然失うという悲しく衝撃的な経験をしたばかりで、深い悲しみに沈んでいたため、原作がより心に響きました。愛する人の死から2カ月後、インドに戻って『悪女』(04/日本未公開/リース・ウィザースプーン主演)の最後の場面を撮影し、戻るときに機内でジュンパの本を読んだのですが、私の悲しみを同じように理解してくれる人に出会えたと、安らぎを感じました。それに、コルカタ(カルカッタ)から始まってニューヨークにたどり着く女性の物語は、私が歩んできた道とほぼ同じでした。これは、他国で暮らすために故郷を離れ、古いものと新しいものを組み合わせることの本当の意味を学ぶ、私たちのような人間の深い物語だと思いました」

撮影中のミラ・ナイール監督
撮影中のミラ・ナイール監督

そのようなこともあり、監督自身にとっても本作は「おそらくこれまでの私の作品の中で最もパーソナルな作品」になったという。

「私たちは、故郷を去り、基本的には2度と戻ることができないという経験をしています。本作も、若者が文化だけでなく名前やアイデンティティーに揺れ、自分自身を発見していく様を描いています。ですが、私にとってこの物語は、見合い結婚をしてから恋に落ちたアショケとアシマのラブストーリーです。現代的な愛ではなく、手で触れられない、周囲には分からない種類の、深い情熱です。上品な覆いの中に、現代の若者のような情熱がほとばしり、ユーモアと気まぐれが詰まった愛です。私たちの親の世代のその種のラブストーリーなのです」

小説の映画化にあたり、監督は舞台となる2つの都市、アメリカのニューヨークとインドのコルカタに共通点を見出す。「自分が理解し、愛し、住み続けてきた2つの世界を融合させる機会でもあった」と、この2つの都市を映し出すことが大切だと悟った。

誰の人生にも起こりうることを描き 共感を得たい
誰の人生にも起こりうることを描き 共感を得たい

「面白いのは、コルカタとニューヨークのエネルギーがとても似ていることです。橋が多く、文化の懐が深く、エネルギーに満ちていることなど、2つの都市は多くの点で共通しています。この2つの都市をフィルムに収めたいと思いました。移民は、気持ちの上では同じ場所に留まっていると感じているけれど、その実、足場は常に2カ所、3カ所にあるのだと最初から分かっていたし、視覚に訴えるものになると思ったからです」

また、監督独自のこだわりで、原作から膨らませた部分も。

「私にとって、どんな映画でも、涙と笑いの間を行き交うことはとても大切なこと。ですから、ゴーゴリがコルカタでジョギングに行き、使用人が後を追うよう命じられる場面は、原作ではたった1行ですが、本当の喜劇的要素とコルカタの街並みを映し出す場面として引き延ばしました。映画の中で悲しみを際だたせるのに効果的でした」

そんな本作に、監督が込めた思いは?

「観客の皆さんには、一寸たりとも動かずに全世界を駆けめぐる経験をしていただきたいと思います。映画の中で、『本は一寸たりとも動かずに旅をさせてくれる』とおじいさんが言っていたというアショケのセリフがあります。この映画を観て、世界を旅し、心を高揚させ、映画の最後に自分の人生における人間のつながりが最高であることを感じてもらいたいと思います。それは望みすぎかもしれませんが、私はそんな思いでこの映画を作りました。人生は一度しかなく、時々立ち止まって人生が投げかける問題を考えなければ、意味のない、ただ障害を乗り越えるだけの人生になってしまうからです。ですから、登場人物が経験したこと、実際の人生の一部分、特定の人々でなく誰にでも起こりうることを、観客が共有できる映画を作りたいのです」

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