シルク(2007) : 映画評論・批評
2008年1月8日更新
2008年1月19日より日劇3ほかにてロードショー
絹の肌触りのように細やかな“掌編”
世界的に注目を集めたアレッサンドロ・バリッコの小説を原作とするこの映画の物語は、19世紀フランスの山間の小さな町から語り起こされる。戦地から戻った若き軍人エルベは、美しきエレーヌと一目で恋に落ちて結婚の後、蚕の疫病の蔓延で危機に直面した町の製糸工場を救うため遠く離れた鎖国下の日本まで蚕の卵の購入へと単独で旅立つ……。
と、ざっと内容を説明するだけでも、日本、カナダ、イタリア合作によるこの映画が、かなりのスケールの大作であると想像されるだろう。だけど本作から僕らが受ける印象は、まさに絹の肌触りのように細やかな“掌編”といった趣で、昨今の2時間を軽く超える大作ラッシュのなかでむしろ新鮮な感動を覚える。たとえばフランスから日本への当時の移動は大冒険だったが、最初の旅でその行程が簡単に示されるだけで、その後の移動については意外なほどあっさりと描写され、まるでフランスと日本が同様の寒気に支配された地続きの2つの場所であると思えるほどだ。そう、この映画の魅力は、さまざまな要素をコンパクトに伝える手際良さであり、これもまた大作とは異質な方向からの映画ならではの達成なのだ。日本の描写があまりに現実離れしている……との疑問も当然日本の観客のなかで芽生えるだろう。だけど驚きの結末まで見届けた僕らは、ここで描かれる日本がもとより“幻影”であったと理解できるはずだ。
(北小路隆志)