劇場公開日 2009年1月24日

「特に未成年の方に観て頂きたい作品です。」誰も守ってくれない karin061さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5特に未成年の方に観て頂きたい作品です。

2008年11月30日

泣ける

凶悪な犯罪で人の命が奪われた時、
私たちは犯人に大きな憤りを覚えます。
何故彼は、彼女は命を奪われなければいけなかったのか。
何故彼は、彼女は人を殺めなければならなかったのか。
その背後にあるものを探そうとして、
私たちは加害者の育った環境にその原因を求めようとします。
そして加害者を育んだ家庭、家族にまで、
憎しみの矛先を向けてしまう・・・。
犯した罪が大きければ大きいほど、
行き場の無い憤りが彼らに向かうのです。
そして、テレビカメラに向かって謝罪する加害者の家族の姿を、
幾度と無く私たちは観てきました。

「ある日、自分が突然加害者の家族になってしまったら・・・。」

この映画は私たちの「視線の反対側」から
犯罪者とその家族を描いています。
家族の一人の人格の崩壊。
その微かな兆し、サインを見逃したために、
ある日突然家族が崩壊します。
捜査令状と言う一枚の紙が、
ひとつの家族の運命を一変させるのです。
様々な手続きが次々と事務的に進められていく中で、
加害者の家族達は自分たちが衆目の監視の中に置かれたこと、
その日を境に完全に世間から孤立したこと、
昨日まで住んでいた世界には二度と戻ることができなくなったことを、
少しずつ悟っていきます。

家族を犯罪者として壁の向こうに失う悲しみと衝撃以上の、
苦しみと痛みが自分たちを直撃する・・・。
一瞬にして地獄に落ちていく加害者家族の苦しみが、
まるで我がことのようにちくちくと心を刺します。
たった一瞬にして、こうも簡単幸せは崩れ去るのかと。
昨日までそこにあったささやかな家族団欄さえも
二度と手の届かない場所へ行ってしまうのかと。

主人公は加害者の妹、しかも中学生です。
彼女にははまだ先の長い一生が残されています。
若く未熟な彼女に背負わされた十字架はあまりに重い・・・。
しかも彼女が背負わされたのは、
自らの罪を贖うためのものではなく、
家族の罪を贖うための十字架です。
誰が彼女にそのような十字架を背負わすことの出来る権利を持つのか。
あまりに理不尽であまりに惨い世間の仕打ち。
しかし、今まで私たちは無意識のうちに
多くの「彼女たち」や「彼ら」を生み出して来ていたのです。

この映画を観るまで意識の無いまま、
加害者の家族に対して抱いていた「思い」。
それがどのような形で彼らを襲っていたのか、苦しめていたのか、
主人公の少女の目線で物語を追ううちに、
胸が苦しくなるほどの思いで彼女の痛みを疑似体験しました。

また、その他にも、
加害者の家族に対して如何なる法的手続きが取られるのか、
彼らを保護する組織の存在やマスコミ・メディア・ネットの功罪など、
今まで知らなかったことをこの映画で沢山発見しました。

単に加害者側からの視点で語るだけでは無く、
映画では少女を保護する刑事や、
犯罪被害者の家族の視点でも物語を描いています。
それぞれの立場に立って物を見たとき、
私たちは何をどう感じるのでしょうか。
何をどう感じることが出来るようになるのでしょうか。

完成披露試写会で鑑賞し既に2週間以上経っていますが、
未だに心に鉛を飲み込んだように重く圧し掛かるものを感じています。
様々な事を考えさせてくれた作品です。
今は、出来れば小学校高学年から高校生までの間の年代の人たちに、
観てもらいたい作品だと思っています。
「自分が犯した過ちが如何なる結果を家族の上にも自分の上にも導くか。」
想像力の無い人たちには特にこの現実を突きつけて観てもらいたい。
そうすれば、多少の犯罪の抑止力にはなるのではないでしょうか。

「踊る大捜査線」の監督・スタッフが、
「踊る~」では描くことの出来なかった
「警察」や「報道」の裏側を描いてみたくて作った作品だそうです。
娯楽に徹した全作とは全く違うアプローチで描かれた作品ですが、
今の時代が必要とする内容の作品だと思います。
ここでの観たい度が1.6点と低いことはとても残念です。
重い内容の作品ですが、ぜひ多くの方に観ていただきたい作品です。

karin061