ミスト : 映画評論・批評
2008年5月7日更新
2008年5月10日より有楽町スバル座ほかにてロードショー
生きることの中で遭遇する怖ろしいものの存在を暴き出す
視界ゼロの白霧の中を自動車のハンドルを握ってゆっくりと進む。霧の中のどこかに怖ろしい何かが存在することは分かっている。しかし、留まるか、ガソリンの続く限り進むかしか選択肢はない。車内に同行者があることは恵みである。こんな場面に鎮魂歌めいた音楽が流れると、なるほど、生きるということはこのようなことでもあったかと腑に落ちる。「ミスト」はそんな映画だ。
スーパーマーケットで買い物をしていた人々が、人間を襲う恐怖の霧の発生によって外部に出られなくなる。同じ状況下に置かれた多くのゾンビ映画では人々は一致団結して戦うが、本作では恐怖ゆえに判断力を失った人間の集団が、外部の敵より怖ろしいものに変貌していく。ここまでは原作通り。が、フランク・ダラボン監督は新たなエンディングを加え、この集団異常心理を回避できた人々ですら避けて通ることができない、生きることの中で遭遇する怖ろしいものの存在を暴き出す。この追加部分によって映画が一気に奥行きを増すのだ。
だが、こうした物語は背後に隠し、表向きはホラー映画の定石を守っているのが本作のよいところ。異様な昆虫系生物が大量に登場、人体の変貌や流血もたっぷり。霧の中にあまりにも巨大すぎる異形の生物も出現するが、その造形と動きは優美ですらある。
(平沢薫)