「【未来に向けられる力】」RENT/レント ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【未来に向けられる力】
映画「チック、チック、ブーン」の中で、プロデューサーが、ジェイソンに対して、自分のことを書きなさいと強く勧める場面がある。
「チック、チック、ブーン」がジェイソンの自伝的な作品だとすると、「レント」は、ジェイソン自身の経験…というより、ヒストリーをベースにした物語なのだと思う。
1990年代、まだ、エイズに対する恐れなどが強いなか、HIV患者はマイノリティの対象ですらなかった。もっと、忌み嫌われていたのだ。
「チック、チック、ブーン」のニュースのなかで、議員が語る、エイズとゲイに対する辛辣な言葉が、それだ。
だが、ジェイソンは、友人にHIV患者がいたり、ドラッグを止めることができないものがいたりしたからこそ、この作品の構想が出来たのだろう。
病気やドラッグだけじゃない。
「レント」は、何が起きるか分からないニューヨークで、夢を追い求めて生きることの孤独や焦燥感、住む場所がなかったり、命の危険も否定できなかったり、そして、こんな中、愛したり、励ましあったり、大切な仲間が逝ったり、そして、激しくぶつかり合ったりはするが、最後には集い、助け合おうとする若者の連帯感を、一人ひとりの微妙な心の揺らぎを曲に乗せて届けるミュージカル作品の秀作なのだと思う。
ミュージカル「レント」は、日本での公演は、ずいぶん後になってからだった。
HIVは、社会問題化してなかったし、マイノリティという考え方自体が日本には少なかったことから、日本で成功するか危惧されていたのかもしれない。
だが、若者をはじめ多くの人々が抱える孤独や焦燥感は、きっと世界の何処を切り取っても同様のはずだ。
そして、今や、過去に人種だけを指していたマイノリティは、性的な指向も含めて語られるようになり、人々の関心は、貧困や抑圧された女性の立場などにも向いてきている。
「レント」は、音楽とともに、こうしたムーブメントの先頭に立ってきたのだ。
アーティスティック・ムーブメントの力は、常に未来に向いていると信じている。
ミュージカルにも敬意を表して。