劇場公開日 2006年4月22日

「宙ぶらりんの韓国映画を、背負え」デュエリスト ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0宙ぶらりんの韓国映画を、背負え

2011年4月25日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

楽しい

幸せ

イ・ミョンセ監督が、韓国の人気女優ハ・ジウォン、若手注目株カン・ドンウォンを主演に据えて描く、アクションラブストーリー。

韓国映画を鑑賞する際、ポイントにしている女優がいる。それが、本作の主演女優であるハ・ジウォンだ。「恋する神父」のような正統派ラブストーリーから、近作「TSUNAMI」といったパニック大作まで堅実にこなせるこの女優の存在は、固定化されたジャンルの中でキャリアを重ねる傾向の強い韓国の女優界に会って、一際異彩を放つ。汚れ役さえ華麗に魅せる天性の存在感は、特に先鋭的な意欲作の中で起用されている。

そんな彼女が本作で挑んだのは、本格的なワイヤーアクションである。「過剰なまでの衝動、暴力」と、「むせ返るほどに情熱的なラブストーリー」の二極化が日本において顕著な韓国映画界。もちろん、それを否定するつもりはないが、この極端な作品群で未来永劫、世界の映画界に太刀打ちできるほど甘くない。それは、関係者が一番良く分かっている。

だからこそ、本作で挑んだのは「ハリウッド」と「香港」、そして「日本」のちゃんぽん映画作りである。基礎となる物語の展開は、正直なところ余りに陳腐かつ単純。とても絶賛できるものではない。だが、本作の場合はそれでよい。

「格好良い映像、これまで韓国が見せてこなかった優美と、スピード」

この一点に、本作の存在意義は集約される。とにかく、あらゆるジャンルのいいとこ取りに批判覚悟で取組み、単純という面での「韓国らしさ」を払拭するために手段を選ばない。だからこそ、本作にはハ・ジウォンが必要だったのだ。

剣技による力強さ、民族衣装の華麗さ、そして野暮ったさ。あらゆる可能性を一人で背負い、本作の方向性を無視した雑多な世界を引っ張っていく。どこに自国のフィールドを見出せばよいのか掴み切れない韓国映画界のために、本作を、ひいては一国の文化を華奢な身体で演じ切る。彼女が担う役割は、国宝級の素質と難しさを秘めている。

結果として、本作の興行的成功は成らなかった。だが、役割は十分に果たした。ハ・ジウォン。この一人の女性が今後韓国映画界にどんな旋風を巻き起こしてくれるのか。是非とも、注目して追いかけていきたい女優である。

ダックス奮闘{ふんとう}