春が来ればのレビュー・感想・評価
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オービスには気をつけよう!ラーメンと酒だけの生活はやめよう!テレビを見ながらウンチするのはやめよう!人生、捨てたもんじゃないよ。
俳優チェ・ミンシクがますます好きになりました。ヒット作ではいつも暴力男を演じていたのに、この映画ではごく普通の中年男になるんじゃないかと心配していたのですが、序盤のシークエンスではちゃんと彼らしさが見れてホッとできます。ホッとできるといえば、いくつかの伏線の中の一つに“他より100ウォン安い自販機のコーヒー”があったのですが、かなり苦かったのか、胃炎持ちの彼には辛かったのか、今後の人生を再出発する上で乗り越えなければならなかったのでしょうね。もちろん、鑑賞後には自販機のコーヒーを飲みましたよ・・・
主人公イ・ヒョヌ(ミンシク)は一流トランペット奏者を目指していたが、なかなか芽が出ずいつしか中年になり、今ではおば様方相手の市民講座で楽器を教えるだけのフリーターとなっていた。ある日、元恋人ヨニから「今度結婚する」と告げられたことを契機に夢を追いかけることを諦め、田舎町にあるトゲ中学校吹奏楽部の臨時講師として赴くことになった。というストーリー。この序盤でのヒョヌとヨニのやり取りで、すでに胸を激しく揺さぶられた思いです。何しろ、同じ年代の独身ミュージシャンという設定ですから、彼の設定には身につまされっぱなしだったのです(さすがに叶わぬ夢はもう追い求めていませんが・・)。
そしてこれまた大好きな音楽映画であります。コンクールで入賞しなければ廃部になるというありきたりな展開を予想させる内容だったり、『八月のクリスマス』を思い起こさせる薬局と若い女性薬剤師スヨンの存在もあったりして、「もしかすると彼の慢性胃炎は胃がんなのでは?」などと余計な想像さえしてしまうのです。生徒にご馳走するといってもインスタントラーメン。いつも金がない男ヒョヌ。“負け犬”とか“負け組”という言葉は嫌いなので使いたくないのですが、それを絵に書いたような人物設定であります。しかし人生の悲哀だけを感じさせるのではなく、たくましく生きる術を知り、人の情けがわかる男でもあります。そして「金のために音楽はやらない」という信念によって真に音楽を愛する素晴らしさを教えてくれたり、生徒や住民たちとの交流によってより人間らしくなっていく様子がうかがえました。
“再生のドラマ”と言ってしまえば簡単なのですが、それもちょっと違うような気がします。何しろ人生のほとんどが挫折なのですから・・・幸せの絶頂期から奈落の底へ突き落とされたのではありません。むしろ、不器用だった男が真摯に生きるためのスタートラインに立つことがテーマなのかもしれません。ヒョヌが家族、恋人を愛することの大切さに気づき、「おれ、最初からやり直したい」と言うシーンでは胸が熱くなってきました・・・できればkossyだって・・・
トゲ中学校があるのはソウルからは遠く離れた東海(日本海)に面した炭鉱の町。毎年人口が減っていくほどの貧しい町でした。薬剤師スヨンの父も炭鉱で体を悪くしていたようだし、吹奏楽部の生徒たちも裕福な家庭の子なんていない。伝染性の眼病が何だったのかわかりませんけど、それも石炭に関係あったのかもしれません。こうした観客の想像に委ねられるシーンが随所に見られ、コンクールの結果やヒョヌの行く末、全てが爽やかに描写され、心を温かくされた上に想像力までが掻き立てられるなんて本当に素晴らしい映画でした(独身男性向けなのかもしれませんけど)。
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