「流れるような技巧的なモノクロの映像には目を奪われる」怒りのキューバ osmtさんの映画レビュー(感想・評価)
流れるような技巧的なモノクロの映像には目を奪われる
冒頭から、とにかくカメラワークが期待と予想を易々と上回り、とても素晴らしい。
特に冒頭のローアングルから川でボートを漕ぐシーン。思わず「おー」と感嘆してしまった。
「私はキューバ(本作の原題)」という語り口から始まるポエトリー(各チャプターごとにリフレインされる)によって、キューバの受難が語られ、その苦難の歴史の流れと、亜熱帯の川をゆったり漕いで行く船頭の身体の動きが見事にシンクロしていく。
まさに、これぞモーション・ピクチャー!
本当に魅せられてしまう。
他にも見事な構図で繰り出されるワンカットの一発撮りが次々と出てくる。
流石、コッポラやスコセッシも絶賛した伝説の映像作品。
しかし、とは言うものの…
ソ連&キューバ合作の国策映画に違いは無く…
革命バンザイ!が基本コンセプト。
前半の革命前の搾取され続ける人達の描写は、ネオレアリズモを彷彿とさせ、とても良かったが、急進的な学生たちが登場するあたりから「共産主義こそ正義!」というイデオロギーPRなモードへとプロットは傾倒していく。
ラストのチャプターで革命の勝利へと向かっていく流れは、もう完全にプロパガンダ。というか、そうしないと成立しない映画ではある。
しかし、キューバの街並みというと前近代的なイメージが強かったが、もう当時からモダンなビルが結構あって、ちょっと以外。
以前から『ゴッドファーザー Part Ⅱ』を観て、わかってはいたが、かなり西側のカルチャーは革命前に導入されていて(というか当時のキューバが西側諸国そのもの)50sアメリカンなドライブ・イン・シアターが普通にあったりする。
ああいうの見ると、やはり当時のアメリカ人にとって、すぐ近隣のカリブ海で社会主義革命が起こったというのは、かなりの衝撃だったのだろう。
あと、改めて思えば当たり前なのではあるが、当時のヨーロッパにもいたような左翼の学生達が当局の目を盗んで政治活動していたというのも、割と意外な発見。
しかし、スペイン語のセリフに、すぐロシア語の翻訳ナレーション(字幕ではなく)が入るというのは、どうにかならんかったのか?