劇場公開日 2004年7月24日

「細部に殺される全体」箪笥/たんす 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0細部に殺される全体

2023年9月23日
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トリッキーで人を食ったような物語構造はパク・チャヌク以降連綿と続く韓国サスペンスの文脈に準じており完成度が高い。鏡やライトを多用したショットはさながらダリオ・アルジェントのような耽美なホラー空間を醸出している。

ただ、演出が酷い。そこは別によくある韓国映画(しかもハリウッドにルーツのあるド派手アクションとかの)を模倣する必要なかっただろ…と思う。特に酷いのは作中で最も重要といっても過言ではないラストカット。

今まさに凄惨な死が現出している一軒家に背を向けどこかへと歩き出すスミ。それを正面から捉えるカメラ。一軒家の2階の窓からはスミの背中に継母の視線が刺さる。つげ義春『李さん一家』の有名な最終コマを彷彿とさせるような不気味さが画面を覆い尽くし、そこに流れている時間がグッと緊張を帯びる。

ここで終わってくれれば…!という俺の願いは空回り、手垢のついたようなスローモーションやフラッシュバック演出がインサートされる。無論、再びカメラが屋外を歩くスミを捉えたときにはもはや先ほどまでの不気味さと緊張に満ちていた画面は失われている。なんでもかんでも長回しすればいいというわけではないが、ここまでズタズタに切り刻む意味は果たしてあるのか。むしろ逆効果なんじゃないか。

他にも、コミカルなズームやSEなど、明らかに場違いな(しかも場違いであることに必然性のない)演出が多々見られた。そのたびに興を削がれるので全体としてかなり苦痛だった。

因果