「重要なのは金魚のカーテン」ネコのミヌース よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
重要なのは金魚のカーテン
ある化学物質に触れて人間になってしまった雌猫と、記事を書くことができずクビ寸前の新聞記者が、街を揺るがす陰謀を暴く。
新聞記者の部屋には、金魚柄のビニールカーテンで仕切られたシャワーがある。このシャワーは独立した空間ではなく、彼の部屋の真ん中に唐突に存在している。
残念ながらこのシャワーが使用されることは映画の中では一度もない。観客は、猫であるミヌースが赤い金魚に興味を持ち、カーテンの中に入ったミヌースの姿を見たいという欲望を掻き立てられるだろう。
しかし、ついに最後まで彼女はグリーンの服を着替えることもないし、シャワーを使って体を洗うこともないのだ。観客はこのことに少し失望を覚えながらも、彼女が実は猫だから水で体を洗わないという子供でも知っていることが、その理由だと分かっているのだ。そして、その観客の失望と諦めこそ、美しい秘書を得た新聞記者の決して表には出さない内面に他ならない。
だからこそ、この新聞記者が魅力的なミヌースに対してジェンダーやセックスの水準で相手と係わることがないという不自然を、観客は受け入れることができる。
使われることのないシャワーが部屋のど真ん中に鎮座し、しかも男の一人住まいには似つかわしくない赤い金魚柄のカーテンが架かっているという仕掛けの意味はこういうことである。
猫の仕草や習慣が抜けきれないミヌースを演じる女優がいい。屋根の上を忍び歩きする姿や窓を叩く手が猫っぽい。
どこで手に入れたのかはさておき、持っている鞄まで同じトーンのグリーンでまとめられたファッションがとても素敵だ。
だが、映画の中でこの服を着替えることは一度もない。彼女の服装が変わるのは、エンドクレジットの背景にエピローグ的に流れる8ミリ風の画の中である。