「この冬からは豚キムチ鍋で」ほえる犬は噛まない TRINITY:The Righthanded DeVilさんの映画レビュー(感想・評価)
この冬からは豚キムチ鍋で
『パラサイト 半地下の家族』(2019)のポン・ジュノ監督の長編デビュー作品。
鑑賞後の作品としての感想を考える以前に、アタマの中が?でいっぱい。
作品冒頭、「医療専門家の立ち会いの元、犬は安全に管理されている」旨の字幕が現れるが、全然そうは見えない。
一匹めのピンドリ(シーズー)は宙吊りにされて思いっきりもがいてるし、二匹めのミニチュア・ピンシャー(?)は本当に投げられてるようにしか見えない。おまけに妻が連れ帰ったトイ・プードルのスンジャは確実にユンジュに蹴られてる。
捌かれる直前の最初の二匹も、作り物にしては精巧すぎ。麻酔をかけられたのだとしたら、つい二週間前、検査入院した身としては、麻酔が醒めるまでの不如意さを思い出すとやっぱり可哀想。
安全の基準、ゆるすぎないか?!
『ほえる犬は噛まない』という作品の邦題も謎。
英訳タイトルからの転訳らしいが、元は英語圏の諺。調べると「怖そうに見えて、実はそれ程でも」という温和な意味から「口先だけで実行力がない」なんて揶揄も見られるが、作中の誰を指してるのか。
原題の直訳に困っての苦肉の異訳なのかも知れないが、その原題こそ、この作品の一番の疑問。
韓国タイトルを直訳すれば、『フランダースの犬』となるらしい。
見れば分かるが、カラオケのシーンやエンディングのアレンジ・ソングからも原作童話ではなく、日本のTVアニメに依拠していることは明らか。
「子供のころ、よく見ていた」という監督(1969年生まれ)のインタビューも存在するそうだが、韓国で日本文化が解禁され始めたのって2000年前後の筈なのに、一体どうやって?!
同じ疑問は、今年になってから拝見したキム・ジウン監督の『反則王』(2001 アニメ版『タイガーマスク』へのオマージュが読み取れる)でも。日本の電波届いてた?!
地下室のシーンが多いからか、『パラサイト 半地下の家族』のプロトタイプのようにも感じる本作。
何気ない日常に潜む落とし穴に嵌まってゆく庶民に視点を向けたことも共通するが、酸鼻な結末で笑えない喜劇に仕上げた『パラサイト』に比べると、騒動の張本人だったユンジュへの指弾ではなく、彼の改心と贖罪を期待させて物語の幕を引く本作の方がはるかに救いを感じ、後味の悪さも残らない。
ヒーロー願望を抱きつつも純朴な心を失わないヒョンナムを自然体で演じたペ・ドゥナの魅力も作品の救いのひとつ。素朴な笑顔と真っ直ぐな眼差しに心が洗われる。
ライトテイストのジャズ(一部ジャズロックも)も小気味よい。
2002年日韓ワールドカップでの韓国の犬食文化批判を風刺したともとれる本作は、愛犬家にはショッキングな表現だらけ(犬へのプチ虐待も風刺の一環だとしたら悪趣味過ぎるが、冒頭の字幕すらジョークなのかも)。
だが、日本でもルイス・フロイスや開国時の欧米人の文献に見られるなど、明治政府から禁止されるまで犬食の習慣は普通だったといわれる。
お隣の犬食文化が国内外から激しく非難されたのは、より苦しませて殺した方が滋養になるという残酷な迷信と、実際に食用もしくはそのための転売目的でペットの犬が盗まれる事件が後を絶たなかったことにもよるとか。
その韓国でも、ようやく今年から犬食の全面禁止が法制化されたそう(2024年1月9日、可決成立)。
星3.5くらいあげたいが、動物虐待が疑われる分、減点。
BS松竹東急で拝見。
ほかのポン・ジュノ監督作品も吹き替えでなく字幕版で観たかった。