「変わったコメディ映画だなぁ(褒め言葉)」ほえる犬は噛まない といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
変わったコメディ映画だなぁ(褒め言葉)
『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞を受賞した韓国のポン・ジュノ監督の長編デビュー作。『パラサイト』でポン・ジュノ監督にハマり、『グエムル』『母なる証明』『スノーピアサー』『殺人の追憶』に次いでの鑑賞です。
どういう映画かという事前知識はほとんどありませんでしたが、熱心な映画ファンとしても有名なライムスター宇多丸さんが他のポン・ジュノ作品をレビューした時に本作についても触れ、「よくできているんだけど、とにかく変なコメディ映画」と評していたのは聞いていました。
結論、確かに変なコメディ映画だった!!!
間違いなく面白いし、ポン・ジュノ監督の特有の細やかな映像演出や細部の伏線が光っており、「ポン・ジュノぽい」映画でした。『母なる証明』でもあった「ドアミラーへのドロップキック」とか、後の作品にも繋がる部分もあって、ポン・ジュノ監督好きならぜひ観てほしい作品です。ただ、動物に対する暴力描写が作中に何度か登場します。動物虐待シーンが苦手な人はご注意ください。
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大学の非常勤講師として働くユンジュ(イ・ソンジェ)は、中流階級向けの小さなアパートに住み、妊娠中の妻の給料で何とか生活するうだつの上がらない男だった。ユンジュは何とか大学教授になろうとしていたが、人付き合いの苦手な彼はなかなか教授の推薦を貰うことができず、根回しの上手い後輩に先を越される始末。そんな中、住んでいるアパートで頻繁に犬の鳴き声がすることに苛ついたユンジュは、アパートの住民がこっそり飼っていた犬を地下室に閉じ込めてしまうのだが…
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ペット禁止のはずのアパートなのに犬の鳴き声が聞こえる。妻の尻に敷かれるうだつの上がらない男が、日頃の鬱憤が溜まっていたこともあり、たまたま見掛けた犬を地下室に閉じ込めてしまう。なかなか突飛な展開ですが、似たような経験がある方ならば気持ちは分かると思います。イライラしている時に聞こえる音は神経を逆撫でされるような感覚に陥りますよね。
大学教授になりたい冴えない男のユンジュと同時並行で、アパートの管理会社に勤めている正義感の強い女性ヒョンナムのストーリーが語られます。アパートで連続する飼い犬の失踪事件を追うヒョンナムも、ユンジュと同じようなおっちょこちょいで仕事が苦手なタイプの人間であり、後半では二人が邂逅して一緒に犬の捜索を行うという奇妙な展開に発展します。時々バレそうになったりして「危ない~!!バレる~!!」って感じで面白いですよね。
ポン・ジュノ監督は『パラサイト』では住宅の高低差で、『スノーピアサー』では列車の車両によって貧富の格差を表現していましたが、本作でも「アパートの階数」で登場人物の立場や格差を上手く表現していたと思います。『パラサイト』と同様に地下には貧しく獣のような生活をする人間がいましたし。
タイトルの「ほえる犬は噛まない」っていうのはかなり意味深な言葉ですが、最後まで観れば何となく意味が理解できますね。元々は"A barking dog seldom bites."というアメリカのことわざで、「危険に見える人ほど実際は脅威ではない」みたいな意味です。アパートで連続する飼い犬の失踪事件はそれぞれ別の人物が犯人なのですが、どう考えても一番の凶悪な犯人は主人公のユンジュで、地下のホームレスはそんなに悪くないですよね。実際は犬殺してないし。しかし最終的にはユンジュの犯行はバレずにちゃっかり大学教授になりますし、ホームレスは全ての飼い犬誘拐事件の犯人として逮捕されます。一番悪いことをしていそうなイメージの地下に住むホームレスは実際は全然悪くない。まさに「ほえる犬は噛まない」ですよね。
全てのポン・ジュノ作品に通じる「社会格差」というテーマが長編デビュー作である本作からも感じ取ることができる。これは本当に素晴らしいですね。『パラサイト』などを観てポン・ジュノ監督の作品に魅了された方は必見の一作でした。オススメです!!