劇場公開日 2003年2月1日

「自他の境界が曖昧に見える」ストーカー 根岸 圭一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0自他の境界が曖昧に見える

2025年5月25日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

 家族や友人がおらず、趣味や他に取り組むべきことも無い孤独な男のサイ。仕事だけは誇りを持って取り組んでいて、それが彼の生きがいとなっている。その仕事すら奪われれば、やけくそにもなるかもしれない。

 だが、普通の人はそれだけの理由で犯行に及ばない。サイが犯行に及ぶに至ったのは、自他の境界が曖昧で、自分はヨーキン家の一員も同然だという意識があるからだ。ここに彼の異常性が表れている。そうなる背景がラストで示唆されていた幼少期の虐待で、それが彼の人格形成に悪影響を及ぼしたと言える。その反動で、彼が最も求めていたのは、自分を必要としてくれる家族だったのだろう。サイは穏やかで優しい性格なので、生育環境が異なれば、良き父として家庭を持つ人生を送っていたかもしれない。彼には同情してしまうし、他人事にも思えなかった。

 ストーリーに関しては、元上司に子供の盗撮写真をわざと見られるようにしてそこから足がついたのは、犯行の詰めが甘いと思う。捕まるつもりはなかったようだし、もっと巧妙な犯行の方がリアリティが出たかもしれない。

 とはいえ面白い映画だった。サイの人物像とそうなる背景、そして犯行の理由とが結びついていてよくできている映画だった。ロビン・ウィリアムズも哀愁があって好演だった。

根岸 圭一