ヴェルクマイスター・ハーモニーのレビュー・感想・評価
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タル・ベーラの黙示録
劣悪なシートだった今はなき名古屋シネマテークに低反発の座布団を持参し臨んだ世紀の傑作、7時間18分の「サタンタンゴ」(1994)に続く2000年作が4Kデジタルレストア版で再映となった。
期せずしてシネマテークの後を継いだナゴヤキネマ・ノイでのデビュー戦となった(シートは新調されていた‼︎)
そして今作もまた嫌になるほどの傑作だった。
ハンガリーの荒涼とした田舎町。町の広場にやってきた移動サーカスと見世物の巨大なクジラ。彼らとともに現れたプリンスと名乗る煽動者にあおられ、住民たちが暴徒と化した。まるで思考を停止したかのように暴行と破壊を繰り返した。何の救いも無かった。
そう、これは黙示録そのもの。
観る我々は郵便配達のヤーノシュと共にそのすべてを見届けることになる。
「サタンタンゴ」や「ニーチェの馬」と同様、ロシア🇷🇺の影響下で自由を奪われ考えることをやめてしまったハンガリー🇭🇺に絶望するが如き厳しい作品だった。
思えば2012年に「ニーチェの馬」で出会った短いお付き合いのタル・ベーラ。しかし自分の中ではすでに45年以上付き合ってきたタルコフスキーやアンゲロプロスと並び称したい別格の存在だ。
個人と大衆心理
素晴らしい作品だ。ワンカットが長尺なタル・ベーラだが、この長さは必然的な長さである。主人公は無垢で美しい魂を持つ心優しい青年。その対極に大衆心理で流され、暴動を起こし破壊し尽くす大人たちが居る。張りぼてのクジラが個人と大衆を翻弄する鍵となる。印象に残るクジラの目は虚空を見詰めつつも、全てを見通しているようでもある。エンディングのワンシーンが一つの世界が終わった後の空虚感を見事に捉えている。全く唯一無二とはこの監督のためにある言葉ではないだろうか?
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