「レイ・ミランドに殺気を感じた」失われた週末 Jun Tanakaさんの映画レビュー(感想・評価)
レイ・ミランドに殺気を感じた
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最後に観てから20年以上は経っていると思うが、レイ・ミランドの鬼気迫る演技は色褪せない。冒頭の旅支度をするドンと兄のウィク。何かソワソワしているドンに、ウィクは話しかけるが、何も耳に入ってこない。ドンは、窓から紐で吊っているウイスキーが気になって仕方ないのだ。その病的なまでの様子が、酒を飲みたいという欲望の深さを感じさせる。
この作品は、脚本家時代のコメディ路線とは違う。笑えるようなシーンは、全くない。只々、アル中の主人公ドンの転落していく姿を描く。酒を飲むためには、嘘をつき、お金をくすね、泥棒までしてしまう。ところが、ドンは、酒を飲むためには仕方ないのだと自分に言い聞かせて、悪びれるところがない。一人の男が落ちていく一辺倒な話なので、飽きてきそうな内容なのだが、レイ・ミランドの怪演のおかげで、スリリングで飽きるどころか、どんどん引き込まれていく。このままエスカレートしていったら、人も殺しかねない殺気を帯びている。
ドンは、自分の存在に嫌気がさす。恐らく、この病気の最終型は、精神的に追い詰められるか、酒のために肉体を病むかどちらかでしかない。彼は自殺を試みる。しかし、恋人のヘレンに説得される。そして、彼女の説得が効いたか、ドンは自殺を思いとどまる。ラスト、これまでの展開が嘘のように、口当たりが良すぎる不気味なものだった。しかし、再起を口にするドンに更なる恐怖を覚える。背筋が寒くなる。彼の口から出る言葉は果たして本心なのか。ヘレンはおろか、ドン自身までも欺く病魔の罠ではないだろうか。四半世紀経っても、まだまだ楽しませてくれる傑作だ。
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