劇場公開日 1950年12月29日

「あるひとつの形の幸福は永遠には続かない、別の形の幸福に向かっていくだけだ!」わが谷は緑なりき KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0あるひとつの形の幸福は永遠には続かない、別の形の幸福に向かっていくだけだ!

2021年5月17日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

子供の頃の炭坑夫家族の思い出を
ノスタルジックに描いた作品。
炭鉱と鉱員長屋が連なる構図も含め、
アカデミー撮影賞・美術賞受賞が納得
の見事な映像に目を見張った。

炭坑夫一家の厳しい生活描写は
「リトル・ダンサー」等の近年の英国映画を
思い出し、日本と同じように、
過去から現代へと、長期に渡って
過酷な労働環境が続いてきた英国石炭産業界
の歴史を見せつけられたような気がする。

そんな歴史観の中に、
恋愛、労使関係の中での仲間意識と誇り、
格差社会と差別、宗教感などの要素が
散りばめられる。
概してマイナス展開する各要素だが、
そこに清涼要素として吹き込まされるのが、
主人公一家と牧師の、
人間に対する優しい眼差しだ。

“わが谷は緑なりき”と言いながら、
炭鉱と鉱員長屋とボタ山の映像が中心で、
“自然”の描写はほとんどない。
しかし、主人公の心には、
愛する人達がいたこその故郷の全てが
美しい自然のように甦っているのだろうか。

学生時代に長崎の軍艦島の調査の
一員に加えていただいた。
この「緑なき島」と呼ばれた島は、
閉山後に島を離れた住民の皆さんにとっても
「わが“島”は緑なりき」だったに違いない。

また、米国映画には英国を舞台にした
このような作品が多い。
米国人にとって英国は郷愁を感じる国
なのかも知れない。
亡命のような状況下で撮った「ノスタルジア」
のように、タルコフスキーにとっても
ロシアの大地は特別なものだったろうが、
この映画の主人公にとっても
同じ思いなのかも。

しかし、この映画の登場人物には
多くの死が訪れると共に、
幸福への希望も予感させてくれない。
主人公が晩年になっての孤独に見える離郷
の理由はなんだったのだろうか。
仮に、閉山の予兆があったからだとしても、
亡き兄家族との希望に溢れたの生活などは
無かったのだろうか。

簡単に比べるものでもないかも知れないが、
かつての家族像を懐かしむとの点では、
似た設定の山田洋次の「息子」を思い出すが、
形を変えた新しい家族像を
予感させてくれる分だけ、
私の中では「息子」の方が未来への希望を
感じられる作品だ。

あるひとつの形の幸福は永遠には続かない、
別の形の幸福に向かっていくだけだ!

KENZO一級建築士事務所
NOBUさんのコメント
2023年3月21日

今晩は。
 コメント有難うございました。
 昨晩、今作を鑑賞しました。感想は”凄いなあ、参ったなあ、今作は70年以上の前の作品なんだよなあ・・・。”でした。
 ジョン・フォード監督作は「怒りの葡萄」「駅馬車」しか鑑賞していませんが、毎週末、新たなる傑作との出会いを求めて映画館に通っていますが、今作の様なレベルの作品を鑑賞すると、”配信オンリーにしようかな・・。”等と思ってしまいます。
 けれども、私は矢張り映画館で観る映画が好きなんですよ。コロナ禍が始まった当初、当時大変な状況になっていた近隣の映画館で観た(新作が全くなかったので)「風と共に去りぬ」や「オズの魔法使い」「雨に唄えば」「ベン・ハー」を大スクリーンでほぼ貸し切り状況で観れたのは(不謹慎ですが)僥倖でした。
 ジョン・フォード監督作の中で、逸品をキチンを見極め、少しづつ鑑賞して行こうと思ってます。これからも宜しくお願いいたします。

NOBU