劇場公開日 1978年8月5日

「戦闘の前後も描く傭兵物の決定版」ワイルド・ギース(1978) 永賀だいす樹さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0戦闘の前後も描く傭兵物の決定版

2013年5月7日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

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傭兵が依頼を受け、部隊をつくり、作戦行動に入り、不測の事態に対処し、最後のケジメをつける。
この全部が一つの作品に映画として詰め込まれている。

本作が単なるアクション映画ではなく、戦争映画として成立しているのは、作戦前の準備が入念に描かれている点。
顔に刻まれたしわの深いおっさんたちがグラウンドで走り回ってヒイヒイ言いながらも鍛錬に耐えたり、緻密な作戦立案で周到な準備を整えたりと、多くの映画でカットされる部分にも十分な尺が取られている。
そうした描写を入れることで、部隊長格のフォークナー以下50人の部隊は、ただの一人も欠けることなく予定通りの作戦行動ができたことに説得力を持たせる。

ただ雇用関係や周辺状況の変化により、その作戦自体が怪しい雲行きになるのだけど。

作戦が予定外に入ったところからはすさまじい。
バックアップを失い、予定とは大幅に変わった戦況を埋めるべく、未確認のエリアに入っていく。
そして失われていく部隊の面々。
もとより圧倒的戦力に奇襲で挑んだ部隊が、逆に追撃されるという事態になるなど作戦計画に入っていない。瞬く間に戦列が崩れていってしまう。
この極限状況下で見せる人間ドラマがシブい。特に戦場を脱出する場面で見せるフォークナーと盟友レイファーとのやり取りは、戦争の残酷さ、無意味さ、無慈悲さを強く印象付ける。

ラストのマターソン卿との対決は蛇足にも思える部分だけど、しかしきっちり決着をつけるという点では好感が持てる。
レイファーとの約束を守ったエンディングにもグッとくるものがある。

何より人間味あふれるキャラクター造詣が見事。
現金が第一のフォークナーと対照的に、正義とは何かに重きを置くレイファー、女にだらしない一方で航空機パイロットとして機転をみせるショーン、南ア出身の白人ピーター、訓練曹長のサンディなど、それぞれに味わい深い。
部隊以外にも作戦を発注したマターソン卿、レイファーの息子エミールなどが作品に広がりを持たせている。

古い映画だけにアクションがチープに見えるのだけは難点。
それ以外は間違いのないところ。

では評価。

キャスティング:8(無慈悲なフォークナーをリチャード・バートン、理想主義のレイファーをリチャード・ハリスが好演)
ストーリー:9(作戦受領から作戦準備、遂行、完結まできっちり全部詰め込んで長ったらしくなってない)
映像・演出:7(アクションはさすがに古臭い。けれど命を燃やし尽くす場面でみせる表情は秀逸)
戦術・戦略描写:7(ややチープな表現ながら、装備や部隊行動、リーダーの人身掌握はリアリティあふれる)
反戦:8(主たるテーマにはすえていないものの、リアルな戦争描写に観るものを考えさせる)

というわけで総合評価は50点満点中39点。

傭兵が活躍する生々しい戦争を知りたい人にはオススメ。
戦場における命の軽々しさ、勇猛さ、無残さを観ることができる。

永賀だいす樹