「期待度◎鑑賞後の満足度◎ 極めて暴力的なのに極めておかしいという離れ業を成し遂げた作品。私は本質的にコメディだと思う。長編第一作にして此の語り口の巧さに感心した。」レザボア・ドッグス もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
期待度◎鑑賞後の満足度◎ 極めて暴力的なのに極めておかしいという離れ業を成し遂げた作品。私は本質的にコメディだと思う。長編第一作にして此の語り口の巧さに感心した。
①マドンナの「Like A Virgin 」の“珍”解釈から始まる冒頭からどこか惚けております。
チップをやるやらん、というつまらん口論を始めたりして(スティーブ・ブシュメが全編を通じて良い味を出しております)、コイツら何者?と思っていたら、場面が変わって、一部を除いて黒スーツで身を固めて歩いていく男達を一人一人紹介していく最初のクレジットはカッコいい。
で、「~はReservoir Dogsである」と来るんですけれども、“Reservoir Dogs(貯水池の犬)”って何?何かのスラング?
と思っていたら場面が変わって血だらけのティム・ロスと運転しながら励ますハーヴェイ・カイテルの場面に切り替わり、彼らの会話から、どうも彼らは宝石強盗をやったのだけれども、どうやら失敗して逃げているということがわかります。
全編こういう感じで、その語り口の巧さに先ず感心します。
②「極めて暴力的」と書きましたけれども、この作品の公開からの30年の間に、特殊撮影技術の進歩もあり流血シーンや銃撃シーン、残酷シーンはもっとリアルでもっとグロくなっているので、公開当時はそのバイオレンスぶりが喧伝されて流血ものが苦手だった私は観に行きませんでしたけれども、今の目で観ればある意味驚く程ではありません。
有名な「マイケル・マドセンが耳を切るシーンーも流石に覚悟して構えてましたけれども、結局「耳を切るところは見せず切った耳を見せる」というだけにとどめておりました(当時の技術では出来なかっただけかもしれませんけれども)。
数年前のリドリー・スコットが監督した『ゲティ家の遺産』では、特殊撮影技術の進歩からか実際に耳を切るところまで見せましたけれども、映画自体がつまらなかったので此の「耳を切る」シーンだけが印象に残っております。やはり大事なのは、どういう風に映画を撮る(作る)ということでしょうね。
③時系列も入り組んでいますし、視点や立ち位置もMr.White⇒Mr.Blonde⇒Mr.Orangeと移ってゆくのに、物語全体がスッキリと理解できる語り口の巧さ。
ただ、肝心の宝石強盗の計画が正確にはどんなものなのかがよく分からなかったのが難点ぐらいでしょうか。
しかしながら、宝石強盗自体のシーンはなくとも、どの様な有り様だったのかは、これまた会話・話術だけでくっきりと浮かび上がってくるのも巧いですね。
④マイケル・マドセンは残念ながら主役として一人で映画を引っ張って行くにはオーラが足りない男優さんだと思います(証拠に主演映画で此れというものがありません。最近はB級/C級映画ばかり出ていますし)。
しかし、本作ではかなり印象的です。タランティーノ監督に感謝しないといけませんね。
彼の退場のさせ方もなかなか上手い。
⑤彼らの中では一番場数を踏んでいて百戦錬磨の筈のMr.Whiteが最後まで警察の“犬”を見抜けず、古い仲間であるジョーやエディを撃ち殺してまで守ってしまった、という皮肉。
容赦なく警官を撃ち殺す非情さを持ちながら、どこか人が良くて「疑う心」よりも「好きな奴を信じる気持ち」を選んだ挙げ句破滅してしまう、という難しい役。
悪い奴も良い人も同じ様に巧みに演じ分けられる演技力の持ち主であるハーヴェイ・カイテルだからこそ演じられたのでしょう。
⑥タランティーノ監督ならではの映画ネタ、TVドラマネタ、70'サブカルネタがあちこちで噴出します。
映画ネタ、TV,ネタには附いていけましたけれども、サブカルネタはやはり現地アメリカ合衆国の国民(或いは他国民でそれオタクの人)でないと附いていかれないと思います。
でも、それがこの映画の面白さ・楽しさを軽減するものではありません。
⑦これまで或る意味で避けてきましたけれども、今年は正直タランティーノ映画にはまりそう。