「雑談が作る関係性と、それを一瞬で覆してしまう残酷性が凄い。」レザボア・ドッグス すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
雑談が作る関係性と、それを一瞬で覆してしまう残酷性が凄い。
○作品全体
大の大人がテーブルを囲んで雑談をし続けるシーンから始まる本作。今となってはタランティーノ監督の「定番の脱線」…と感じることは否定しないが、その雑談で築かれていく人間関係がドラマの礎になっているのも事実だ。
物語の鍵を握るホワイトとオレンジの関係性についても、ホワイトが不注意だったことを悔やんでいるということだけではジョーに銃口を向ける理由としては弱いが、くだらないジョークをかます空間に必ず二人がいて、関係性を築いていったという痕跡を重ねていけば、「定番の脱線」がタランティーノ監督作品にあり続ける意味が見えてくる。ホワイトがオレンジに故郷や本名を教えたのはそうした雑談の中での一幕なのだとすると、「定番の脱線」は脱線ではなく本筋になるのではないか。
その一方で印象付けられるのは残酷さだ。この残酷さは視覚的なグロテスクな表現というのももちろんあるけれど、それ以上に築いてきた関係性を一瞬で崩壊させてしまう容赦なさに残酷さを感じる。冒頭の雑談からのオレンジの大怪我、ブロンドの優位性を一気に覆すオレンジの発砲、対立するジョー、ホワイト、エディの相打ち…一秒前には思いもしなかった状況の変化。この衝撃は突拍子のなさだけではなく、長く時間をかけてきた関係性を一瞬で崩壊させる時間の使い方があるからだと感じた。
状況の変化を客観的に映し出す残酷さ。言葉という人と人とのやりとりあるからこそ、それをあっという間にひっくり返してしまうことに、冷酷だと感じた。
雑談が作る人と人同士の関係性とそれを覆す残酷性、この2つをつなぎ合わせる時間間隔。どれもがエッジの効いた作家性に彩られていて、唯一無二の作品だった。
○カメラワークとか
・オレンジが小話を覚えるシーンが特に良かった。カンペを見ながら自宅で練習するところから同僚へ練習するところへ繋ぎ、ジョーたちの前で話すところへシームレスにカットを繋ぐ...このアイデアが面白い。さらに小話の世界へ入り、警察官に睨まれるオレンジを映して視覚的にも小話の説得力を演出していた。
小話中の警察官とジョーたちを重ねているのもテクニカル。どちらにもオレンジへ向けた疑心の目があるように見える…というシチュエーションの重ね方が上手い。
ストーリーを覚えはじめのぎこちなさと、それがなくなってから気がついたらジョーたちの前で滑らかに喋っている酒場のシーンまでのつながり上手かったなあと思います。