リリー・マルレーンのレビュー・感想・評価
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1930年代後半のスイス。 歌手のヴィリー(ハンナ・シグラ)は、良...
1930年代後半のスイス。
歌手のヴィリー(ハンナ・シグラ)は、良家の子息で音楽家のロベルト(ジャンカルロ・ジャンニーニ)と愛人関係・恋人関係にあった。
世はナチスの勢力が増していた。
ロバートの父ダヴィッド(メル・フェラー)は自身もユダヤ人であることから、ユダヤ人救済組織を主幸しており、ロベルトも救済活動の一翼を担っていたことから、アーリア人ヴィリーと息子の交際・結婚に反対していた。
救済活動の一環でロベルトとともにミュンヘンに向かったヴィリーだったが、ダヴィッドの工作により、スイスへの再入国が拒否され、ヴィリーはロベルトと離れ離れになってしまう。
行き場を失ったヴィリーは知人のヘンケル(カール・ハインツ・フォン・ハッセル)の伝手で酒場歌手の仕事を得、その仕事の初日に「リリー・マルレーン」を歌うが、怒号と喧騒。
しかしながら、それはヴィリーを「リリー・マルレーンの歌手」として有名にする一歩だった・・・
といったところからはじまる物語で、時代に巻き込まれ、飲み込まれていく女性のメロドラマだが、おそろしいほどのスピードで進む。
まともに、ゆったりと描くと3時間は超えると思われる物語を2時間の尺の収めるべく、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督が採った方法は、各シーンのカット尻を短くするという手法。
これにより、スピードがアップしたわけだが、人物描写がやや雑になってしまうおそれもあり、人物関係がわかりづらくなってしまったかもしれない。
個人的には、成功していると思うが。
もうひとつ注目すべきは、音楽の使い方で、当初、スローでメロウな雰囲気で、ゲッペルス曰く「死臭が漂っている」と言わしめた(劇中の表現)「リリー・マルレーン」の曲が、ナチスの勢いを増すにつれて、軍歌風の編曲に変化していく。
「リリー・マルレーン」の曲が流れる際には、戦場での戦闘や塹壕での待機のシーンがクロスカッティングされるのだが、歌うヴィリーや舞台の様子の変化もさることながら、曲調の変化により、戦場シーンから受ける印象ががらりと変わる。
うーむ、モンタージュ、ファスビンダー演出、おそるべし。
終戦とともにヴィリーも失墜していくのだが、映画はそんな彼女に寄り添わず、ドライに突き放して、映画は終わる。
初見より、かなり面白く観れました。
ファスビンダー監督作品、意外と面白いんですね。
なんか、しんねりむっつりなイメージがあったけど。
戦争を背景にすれ違っていく男女を描いた映画
第2次世界大戦中、ナチスドイツの兵士たちに愛された歌「リリー・マルレーン」を歌ったビリーと、彼女が愛した反ナチス組織のユダヤ人ロベルトの話。
ナチスドイツが優秀な人種と認めるアーリア人のビリーと、迫害される側のユダヤ人のロバートの恋物語なので、その大戦中の恋は障害が多く、というよりもほとんど会うことも叶わないです。
その為、お互いに結構な無茶をして逢引きをしますが、その度にナチスに監視されて立場が危うくなります。
ナチスのしつこい追及、精神を攻撃する尋問、迫害人種への容赦ない差別と攻撃、命令を従わない物への死地への出征命令、そして「リリー・マルレーン」が流れる度に気持ちを奮い立たせて死地に飛び込む兵士等。
ドイツのこの時代を描く以上はナチスの凶暴性は避けて通れないのでしょうが、流石に毒々しいです。
そんなナチスの中に入って歌姫として祭り上げられていくビリーの危うさ。
ユダヤ人との繋がりを疑われてからの彼女の転落ぶりは、いつ殺されるのか判らない恐怖心を観る者に与えるサスペンスな展開でした。
ロベルトに至ってはもっと酷いですね。
ナチスに捕まった時点でビリーとの繋がりまでほぼばれており、ひたすらビリーがユダヤ人との繋がりを自供するように尋問される。
尋問というより狭い個室の中で一面のビリーのポスターと延々と流れる「リリー・マルレーン」の歪んだ一小節。
次第に精神に支障を来すロベルトの苦痛ぶりが結構なホラーでした。
そして、ナチスによる策略で意図せず同室で接見するビリーとロベルト。
お互いに夢にまで見た再開のはずなのに、というよりも失敗したらお互いが破滅することを理解した中での再開で、咄嗟に他人の振りをしてやり過ごそうとする二人の緊迫感。
なかなかこれは圧倒されるシーンでした。
それでも内通がばれ、凋落していくビリーと、逆に裏取引で解放されるロベルト。
ロベルトの策略によりビリーは殺害を免れるものの、戦争の終結後も二人が結婚することはないです。
ロベルトは解放後、ナチスも終焉を迎え、家族の繋がりから結婚し音楽家として大成しますが、自由になったビリーと再会を果たすも、その恋は実らず切ないラストを迎えます。
戦争を背景にすれ違っていく男女を描いた映画は多くありますが、この映画も多くの名作と同様にやるせなさを感じるラストでした。
監督はライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、ニュー・ジャーマン・シネマの代表監督の一人で、残念ながら37歳の若さで亡くなってしまった方です。
僕はこの映画しか見ていませんが、べったりと絵の具を塗ったような個性的な映像、平面的に感じる固定された構図、調和の取れた舞台装置の美しさに加え、サディスティックな尋問やナチスらしい戦争鼓舞に感じられる狂気。
天才と言われる監督だけあって、ストーリー以外にも興味深さを感じる映画でした。
これで小難しいと今後は身構えるのですが、映画としては戦火の中での許されない恋を描くというメロドラマ的な展開なので、すんなりとストーリーも理解できます。
他の映画を観れていないのは残念なんですが、個人的には好きな監督になりそうな気がします。
ファスビンダーは作中にも役者として登場します。
反ナチス組織の指導者として、全くカリスマ性を感じない指導者ぶり。
この登場人物が出てきた時点で、なんだその似合わないサングラス?と思いながら、違和感を感じて観ていたら、鑑賞後にファスビンダーと知り、ちょっと笑いました。
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