「名女優キャサリン・ヘプバーンの中期の代表作」旅情(1955) Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)
名女優キャサリン・ヘプバーンの中期の代表作
映画が観客に夢を与えることが一般的だった1950年代の恋愛映画の名作。「逢びき」「大いなる遺産」のデーヴィット・リーン監督のハリウッドデビュー作。38歳の独身女性が念願のヨーロッパ旅行をする現実味は、当時のアメリカでも薄かったと想像します。20年掛けて贅沢せずお金を貯めたなら、それはそれで設定に無理はないのでしょう。
水の都ベニスの風光明媚な舞台で、イタリアの伊達男から熱烈に口説かれる中年女性のよろめき。この陳腐と云える物語をただの娯楽作品にしないで、説得力のあるドラマにした要因は、ひとえにヘプバーンの存在とリーンの演出にあることは明白です。男性に頼らない自立した女性像を私生活含めて実現したバックボーンと知性と演劇芝居の高度な演技力。唯一の弱みは設定年齢より10歳超えるヘプバーンの顔の皺です。元来白人女性は皮膚が薄く、ヘプバーンもその例にもれません。実際リーン監督は撮影秘話のなかでヘプバーンの皺を隠すのに苦労したと淀川長治氏に語っています。しかし、そんなことも、ラストの別れの場面の余韻で忘れてしまいます。爽快感と満足感を与える映画史に残る名ラストシーンです。
リーン監督は、この映画の成功でハリウッド資本による商業映画と芸術映画のバランスの良い大作を連続して大ヒットさせます。「アラビアのロレンス」「ドクトルジバゴ」「ライアンの娘」など、今ではだれにも作れない遺産になりました。
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