「これから歩きだすための「走る」。」ラン・ローラ・ラン すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
これから歩きだすための「走る」。
◯作品全体
映画のクライマックスシーンは「走る」が定番になってる。切羽詰まった感情を煽るかのようにBGMが流れ、誰かに会うために、なにかに間に合わせるために走るわけだけど、定番過ぎてちょっと食傷気味。一つ一つ紐解いていけば「走る」にはいろいろなものがあるんだろうけど、ほとんどの場合は走ったあとの結果へ繋いでいるだけで、アクション映画の戦闘シーン同様、物語上の意味付けはあまりない。画面は派手だけど、アクション自体に物語を動かす力がない、というような。
本作は主人公・ローラが恋人・マニのために走る。そこだけ切り取ると食傷気味の演出に当てはまってしまうが、本作は走ることで物語が変わるのが面白い。
物語が変わる法則は明確には存在せず、繰り返すことでハッピーエンドに近づく、という一点だけだが、ローラが走ることで周りの人物の「それから」が変わり、そしてローラ自身の運命も変わるという単純さが良い。「走る」という単純な行為とシンクロしているし、「走る」が繋ぎの役割ではなくて、ひたむきさや力強さによってそのまま登場人物に影響を及ぼしている。ローラのド派手な赤髪、コメディチックなアニメーション、ローラの行動の破天荒さ…トリッキーな要素はたくさんあるのだが、ローラが動くことで世界が変わるという、その一点だけが根本にある潔さが心地いい。
そしてローラとマニは失敗を重ねる中で、互いが隣にいることの大切さを知る。中途半端に停滞していた感情が、「走る」ことによって心も動き出したかのようだ。目的を達成し、交差点で合流する二人は手をつないで歩きだす…そう、二人にとってラストシーンは出発点であり、ローラはその出発点に到達するために走り続けていたのだ。本作のファーストカットにある引用句、「我々はすべての探求を終えた時 はじめて出発点を知る」がラストシーンで強く浮かび上がる構成が見事だった。
〇カメラワークとか
・電話ボックスがある交差点はカッコいいカットが多かった。電話ボックスを中心としたシンメトリーなレイアウトや赤信号をなめ構図で撮ったレイアウトとか。
・オープニングでマグショット演出。これの元ネタってなんだろう。『踊る』シリーズでも使われてたやつ。
◯その他
・テクノ調のBGMがすごく良かった。父に見放されたり、足を引っ掛けられて痛めてしまったり、ローラにとって状況が良くない場面でも一定のビートが流れてる。ローラの背中をずっと押しているような感じがして、すごく良い。
・カジノのくだりは正直蛇足感あったし唐突すぎたなぁ。今までのやり直しでカジノが絡んでるのであればアレだけど、全然関係なかったし。そのお金が無くても二人は手を取って歩き出せた気がする。