らせん階段(1946)のレビュー・感想・評価
全1件を表示
83分でこのスリル・面白さ。単なるスリラー映画というだけではなく現在のサイコスリラー/サイコサスペンスの先駆とも言えるだろう。
①緩急をつけながらも終始不穏さを漂わせ、サスペンスを醸し出すのに白黒画面の陰影を上手に使った演出。ロバート・シオドマクのスリラーを演出する手腕は、ヒッチコックには敵わないまでも、なかなかのもの。首を絞められもがく被害者の前腕だけを映す絞殺シーンも巧み。②何と言っても主演をドロシー・マクガイアを迎えた事が成功の大きな要因の一つであろう。まあ、何と若くて可愛いドロシー・マクガイア!という第一印象。口がきけない可憐な娘に殺人鬼の魔の手が迫るというだけでもサスペンス!ではあるが、ドロシー・マクガイアの強みは演技力が半端でないこと。どのシーンでも的確な演技を見せるが、特にブランチが殺されているところを見つけた後、恐る恐る後ろを振り返る芝居の上手いこと!過去の出来事のショックから声を失った娘が最初に口にした言葉(ホントの第一声は悲鳴ですが)が、愛する男の名前というオチもなかなか宜しい。③助演陣もなかなか豪華。エセル・バリモアは初のお目見え。目力が凄い。口の減らないババアながら、実の息子と義理の息子とが抱える心の闇を実は見通していた最重要人物でもある。でも止めることが出来なかった自分への贖罪の様に(自慢の射撃で)犯人を撃ち殺した後、実の息子に詫びながら死んでいくところはなかなか宜し。エルザ・ランチェスターは本作のコメディーリリーフ的な役を不気味な雰囲気を壊さない程度の匙加減で演じていて達者だ。④犯人の異常心理もサイコものに馴染んだ観客には興味深いものがある。自分には男らしさが欠けている弱い人間だという自意識と劣等感、それがマチズムの権化みたいな父親に軽蔑されていた、愛されなかったことにより拍車を掛けられ、また自分と同じような弱いと思われている人々への近親憎悪に似た思い、これらがない交ぜになり、自分より弱い人間を手にかけることにより父親の望む人間になれると思い込むまで捻れ狂ってしまった心理。⑤世界大戦に初めて参戦し戦後には大量のPTSDを患った兵士が帰国してきた1940年代のアメリカは、戦前とは異なり不安で暗い空気が社会を覆い世相を反映したフィルム・ノアールやサイコサスペンス/スリラーが大量に製産された。本作はその一本。その後、朝鮮戦争、ヴェトナム戦争、イラン戦争、アフガン戦争が起こる度に同様の現象が繰り返されることとなる。⑥ブッサーなブルドッグのカールトンが後半活躍するかなと思っていたら途中で消えちゃたのが残念。
全1件を表示