劇場公開日 2023年12月8日

  • 予告編を見る

「ウォン・カーウァイの作風が確立された傑作」欲望の翼 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 ウォン・カーウァイの作風が確立された傑作

2025年8月27日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:その他、映画館

斬新

癒される

ドキドキ

ウォン・カーウァイの監督第2作で、カーウァイの名前を初めて知った作品。邦題とポスターデザインのかっこよさにしびれて、直感的に「ぜひ観たい」と思ったんだが、当時僕の住んでた地方はその地方一の大都会だったにも関わらず劇場公開がされなかった上に、ビデオもなぜかレンタルビデオ店に置かれず……。東京の友人の家に遊びに行った時にレンタル店にあるのを見つけてうらやましいと思ったことを覚えている。その後、実家のある中小都市に帰った後、『恋する惑星』の大ヒットに伴い、ビデオが低価格再発売されてレンタル店にも置かれたため、ようやく観ることができた。その後になって地元映画館でも何度か上映されている。

映画は非常に素晴らしかった。映画の文法そのものを大幅に解体し、脚本を無視した明確な起承転結を持たない構成、説明描写よりも作品の空気や雰囲気を重視して観客の想像に委ねるスタイル、撮影監督のクリストファー・ドイルによるスタイリッシュな映像、マヌエル・プイグや村上春樹などの文学作品から影響を受けた詩的なモノローグとラテン音楽の多用、誰もが誰かに片想いという恋愛群像劇など、カーウァイ独自の作風がこの映画で確立している。

レスリー・チャン、マギー・チャン、カリーナ・ラウ、アンディ・ラウ、ジャッキー・チュン、トニー・レオンなどといった大スターの共演も後々まで続くカーウァイ映画の特徴だ。当時の香港映画界は娯楽映画一辺倒で彼らの演じる役柄は良くも悪くも非常に類型的なものばかりだったが、そんな中でカーウァイは脚本家出身でありながら脚本を無視して即興的な演出と編集で彼らの個性に合わせた役柄を創造していったのがとても新鮮に感じられた。実際、僕はこの映画を初めて観た時に、彼らは初めて彼ら自身にふさわしい役を演じ、一代の当たり役を得たと感じた。ただ、そういうある意味行き当たりばったりな作り方は製作を滞らせることもしばしばで、『楽園の瑕』や『2046』などのように完成まで3年も5年もかかってしまうことも多く、俳優側も大いに疲れるもののようだ。

もう1つのカーウァイ映画の特徴として、前記の通り劇中の恋愛のほとんどが成就しないというものがある。カーウァイ映画に出てくる恋愛はほとんどが片想いで、まれに両想いの場合もあるが、両想いの場合ですらその恋愛は成就しない。もっともそれはカーウァイ映画に限ったことではなく、日本や韓国を含めた東アジアの作品全体に当てはまることなのかもしれないが、カーウァイ映画では特にその傾向が強い。

個人的にはこの映画はカーウァイ映画の中でも1番の傑作で、低価格再発売VHSからDVD、そして4Kレストア版Blu-rayに買い換えて、今でも数年に1回は観返している。4Kレストア版で久しぶりに映画館で観れたのもとてもうれしかった。なお4Kレストア版ではVHSやDVDにはなかったマギーとアンディの1シーンが追加?復活?されていた。

バラージ
PR U-NEXTで本編を観る