「ウォンカーワイグリーンの世界」欲望の翼 momoさんの映画レビュー(感想・評価)
ウォンカーワイグリーンの世界
赤や、青のイメージの映画もあるが、この映画はウォンカーワイグリーンの世界。
心の中のウエットな部分が、じとっとした、森林の緑と溶け込んでゆく。
時計を拭く、床も拭く、香港での生活は現実的だ。
鳥に脚は無いが、欲望の翼は付いている。
地に足を付けた生活ができない脚のない鳥にも欲望の翼だけは付いていた。
この鳥が主人公を象徴している。
人は本当は地に足を付けた暮らしをして、望まれる場所で生きた方が幸せだ。望んでくれる女は育ての母を含めれば3人もいるのだから。
しかし欲望の翼は、望まれてもいない産みの母を探しに飛び立ってしまう。
まるで飛び立つ先は楽園であるかのような欲望を抱き嫌気のさした香港を捨てて。
美しい産みの母のなんと残酷なことか。
愛してあげてそこで着地させてあげて欲しかった。そこに楽園はなく、翼を翻すしかない悲しさ。
自分も産みの母に顔を見せてやらないと負け惜しみのひとつも言って後は、自暴自棄になるしか道はなく金もパスポートも失い…
列車が次の駅に到着するまで時間は12時間もたっぷりあったのだ。
報復に合って撃たれるのに1分もかからなかった。
一生に1度しか着地出来ない脚の無い鳥は生きていればやりたかったことに思いを馳せてスーとの1分の時間を思い出しながら着地し命を終える。
最期を見届けてくれた船乗りに感謝。
警官をしていたことも船乗りになった事も不思議な縁だ。
行動力のあるミミがせっかくやってきたのに、列車は走り去る。
他の鳥たちは脚が付いているので、やり直せるさ。着地してまた飛べばいい。
個人的には勝気でチャーミングなミミにも清楚な待つ女スーにも、幸せになってもらいたい。
望まれる場所は2人ともそれぞれある。
愛してくれる男の元で望まれて生きて欲しい。
最後のくわえタバコのトニーレオンの身支度は、客船の中だろうか。
船は香港に到着したようだ。
船乗りも一旦船を降りてサッカーを観にいってスーと再会してほしい。
ミミもいつか車を売って空に飛ばせてくれた男を思い出して香港に戻って来て欲しい。
2020年になって、久しぶりに観た。悲しい鳥に思いを馳せて。
もう、レスリーチャンもこの世にはいない。
香港もこの頃と随分変わってしまっただろう。
この映画を初めて観た頃に比べると、自分の残りの人生もだいぶ少なくなってきた。
1分が2分になり2分が1時間になるような最初の1分の時を大切にしようと思う。