モーリスのレビュー・感想・評価
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わかれ道のその先は
80年代の英国美男子ブームのきっかけを作った作品としても名高い「モーリス」(もう1作は「アナザー・カントリー」と言われている)。今回のリバイバル上映まで鑑賞したことはなく、てっきり美しく麗しい青年の睦み合いを拝むものかと思いきや、ストーリーは寧ろ、モーリスとクライヴという青年二人が離別した後の道のりに重きを置いていた。
同性愛が犯罪であった時代。良く知る人物が同性愛の罪で逮捕され重罰に処されたのを目の当たりにし、二人はお互いの関係からほんの少し腰が引けてしまう。そしてクライヴは女性と結婚をする道を選択し、モーリスはそれでも愛したクライヴの面影を追いかけながら自分の性的な嗜好に正直に(もちろん表向きには見せないが)生きる道を選ぶ。順風満帆に見えるのはクライヴの方だ。何不自由ない結婚をし、幸せな家庭を築いている。モーリスはと言えば、自分の性的嗜好に悩み苦しみ傷だらけになりながらその後の人生を生きている。ほんのひと時、同じ時間を共有したはずの二人は、以降正反対の人生を送ることになる。確か、先に想いを告げたのはクライヴの方だった。モーリスは寧ろ最初は怖気づいた方だった。しかし後になればクライヴは過去に蓋をして前を向き、モーリスの方が過去にとらわれ続けている。
そんな対極的な人生のその先に、モーリスはついにクライヴ邸の若い猟場番アレックに安らぎを見出す。人には決して言えない関係だけれども、モーリスはようやくひとつの愛にたどり着く。そしてそれはクライヴが遥か昔に手放し諦めた愛だった。自分には決して手に入れることはできないだろうと早々に捨てた愛を、まさに目の前で手に入れたモーリスの姿に、クライヴは呆然と立ち尽くしてしまう。それがラストシーンの窓越しのクライヴの表情に表われる。
私自身、クライヴの選択が正しいように感じながら物語を見ていたし、モーリスの傷つきながらしか生きてゆけない生き方をある種憐れんで見ていた部分もあった。しかし、最後にモーリスが手に入れた愛を見せつけられ、クライヴが思わず呆然としたのと同じ気持ちになった。回り道をし、傷だらけになったけれど、望んでいた愛にたどり着いた者。早くに愛を諦め、表向きの幸せを掴む道を選んだ者。どちらが正しいか、どちらが幸せかを考える時、映画の中腹でそれを問われるのと、ラストシーンの後に問われるとのできっと答えは変わるだろう。そしてクライヴもそのことを思い知らされたのだろう。大学時代に選択したわかれ道のその先。どちらも不幸でどちらも幸福だとしても、自分を偽って手に入れた幸せより、傷だらけでも自分に正直な姿で手に入れた幸せの方が美しく見えるもの。そんな問いかけを感じる一作だった。
モーリス4K
30年前も見ましたが、4Kのキレイな映像で見ると改めて伝説の名作でした。
すごく懐かしかった~
でも映画の画像がヒュー.グラントが主役みたいな扱いで、知らない人はモーリスがヒュー.グラントだと思ってしまうと思います。
それだけがモヤモヤ
感情をも織り込んだ映像美と雰囲気作りのうまさ
総合:85点
ストーリー: 80
キャスト: 80
演出: 90
ビジュアル: 85
音楽: 80
同性愛が悪であった時代に、地位も名誉もある家系に生まれて自分自身を隠して生きなければならなかった男たちの生き様を、揺れ動く感情や心のひだまで織り込みながら見事に映像化している。最初は全く期待せずに見ていたのだが、冒頭から美しく撮影される英国の浜辺の風景に魅了される。続いて登場するケンブリッジ大学の校舎の撮影のこれまた見事なこと。相当に美的感覚の優れた人たちが作り上げたのだろう。それに合わせた情感たっぷりの緩やかな音楽もその情景にとても合っている。
耽美な愛の世界であると同時に、人目をはばかり社会の裏側でひっそりと育まなければならない愛でもある。自分の愛を貫くのか、社会に迎合するのか、文芸作品をその映像美で丹念に織り上げて、悪い言葉で一言でまとめるのならばただの恋愛ものにすぎない作品を、壮大な人生の語らいにまとめあげていた。風景・衣装・建物・言葉づかいまでしっかりと作り上げ、人の感情を映像に合致させて雰囲気を作り上げた手腕は素晴らしい。ジェームズ・アイヴォリー監督は「日の名残り」でも似たようなの映像と雰囲気を作っていたので、これはもう監督の感性のなせる賜物なのだろう。
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