「不毛の争い」メンフィス・ベル odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
不毛の争い
メンフィス・ベル(B-17F)は第二次大戦のヨーロッパ戦線で活躍した実在の戦略爆撃機。
航続距離の関係で戦闘機の護衛も無く対空砲火の厳しい昼間爆撃では撃墜される機も多かった。
当時25回(後に30回)の出撃で帰還すれば本国に戻れる特例が設けられた、第八空軍の6割が達成できずに撃墜されているそうだ。
戦時国債の販促や士気高揚を狙って軍の広報部は1944年にメンフィスビル出撃のドキュメンタリー映画(The Memphis Belle: A Story of a Flying Fortress)を作っている、なんと監督は「ベンハー(1959)」や「ローマの休日(1953)」でも有名なウィリアム・ワイラー(当時少佐)さんでした。
本作は大分脚色されてはいますがワイラーの娘のキャサリン・ワイラーさんがお父さんを忍んで製作したリメイク作品です。
また、グレゴリー・ペックがクールな司令官を演じた「頭上の敵機(1950)」も同じB-17爆撃隊の戦争映画でした。ヨーロッパでの戦いは米軍兵士にしてみれば助っ人意識、弱い使命感、死への恐怖心から梵ミスもあり多くの若い兵士が命を落としたのですが、その辺の問題をシリアスに扱ったのは「頭上の敵機」の方でしょう、本作は搭乗員の描写も浅いように思えます。
出撃前夜のパーティは実際には行われていませんし、民間人を殺さない為に目標視認まで旋回するなど美談のように描かれていますが脚色でしょう。リスクの高い昼間爆撃は無差別爆撃を避けるための米軍の戦法で英軍はもっぱら夜間爆撃だったとされていますが戦局がエスカレートするにつれドイツでは 131 の市町村が爆撃され、英米両軍による無差別爆撃により、約 60 万人のドイツ市民が死亡したと言われています。民間人が犠牲にならない戦争など古今東西あり得ないことだけは確か、今またウクライナ戦争の真っただ中、人類はいつまで不毛の争いを続けるのか胸が痛みます。